キリスト教の祭日であるイースター(Easter、復活祭)は、毎年3月か4月にやってくる「春分の日の後の最初の満月から数えて最初の日曜日」で、2018年は4月1日です。
イギリスは国王を首長とする「イングランド国教会(Church of England)」の国、すなわちキリスト教の国ですから、イースターは国民の休日となります。
イースター直前の金曜、キリストが十字架にかけられ処刑された日とする「グッド・フライデー(Good Friday、聖金曜日)」からはじまり、土曜をはさんで日曜のイースター、その翌日の月曜の「イースター・マンデー(Easter Monday)」まで4連休となり、一般的な学校はグッド・フライデーから約2週間のイースター休暇となります。
ちなみにキリストが亡くなった日をなぜ「グッド・フライデー」と呼ぶかというと、「ゴッズ・フライデー(God’s Friday)が次第に変化した」とする説、「グッドには『聖なる』の意が含まれていることから」という説、また「キリストが死を迎えた金曜日は、その後の奇跡の『復活』を導いた『良き日』と解釈される」説など諸説あります。
もともとキリスト教の祭日として『復活祭』という言葉を聞いたことがある日本人も少なくないのではないかと思いますが、2010年に「東京ディズニーランド」が春季イベントとして「ディズニー・イースターワンダーランド(2018年は東京ディズニーシーでディズニー・イースターを開催)」を開始したあたりから、『イースター』という言葉の認知度が上がりはじめたようです。
その後徐々に日本の百貨店や食品メーカーなどもイースターに注目し、関連商品の開発・販売を始め、クリスマスやバレンタイン、ハロウィンに続くイベント、または企業の商機として特にここ数年でさらなる広がりを見せているのではないでしょうか。
イギリスのデパートやスーパー、1ポンドショップでも、3月に入るとウサギやヒヨコ、イースター・エッグをモチーフにしたイースター商品が所狭しと並びはじめ、『もうすぐ本格的な春がやって来るな』と感じさせてくれます。
そんなイースター関連商品の中で、イギリスで毎年8000万個も売り上げているのがイースター・チョコレート・エッグ。
バレンタインにもハート型のチョコレートなどが売られますが、イースターではバレンタインをはるかにしのぐチョコレート商戦が繰り広げられています。
まさに生命の固まりである卵が、復活や生命の象徴と考えられ、イースターに卵を飾ったり、食べたりするようになったとされています。
イギリスでは19世紀後半に定着したとされる、庭などに隠された卵を探す宝探しのようなイベント「イースター・エッグ・ハンド」。ちょうどその頃、19世紀初頭にドイツやフランスで作られ始めていたチョコレート・エッグを、イングランド南西部のチョコレート会社「J・S・フライ・アンド・サンズ」がイギリスで最初に販売すると、瞬く間にイギリス中に広まりました。
キリスト復活のシンボルであったイースター・チョコレート・エッグですが、実は現在のイギリスは、はなから宗教的意味合いなど無視したイースター商戦が展開される日本のことをとやかく言える立場ではなくなっています。
移民の増加で多宗教国家となっただけでなく、イギリス人自身の急速なキリスト教離れも手伝い、宗教的な色合いが濃い商品は売りづらくなっており、企業も売り上げを優先し、宗教色を排除した商品開発をするようになっています。
チョコレート・エッグのパッケージを見ても、「Easter」の文字すらないもの、あっても小さく表示されているものが目立ちます。
中にはイースター向けに開発されチョコレート・エッグ商品と並べられるも、もはやイースターからかけ離れた商品も置かれています。
近年のトレンドは巨大化と高級化。エッグ・ハントに使用するものは小さめ、プレゼントには大きく見栄えの良いチョコレート・エッグが好まれています。
ロンドンの一般的なスーパーで売られている様々なチョコレート・エッグをご紹介しましょう。
・イギリスのチョコレートと言えば「カドべリー(Cadbury)」
1824年にイングランド中部の街バーミンガムで小さな商店としてスタートしたカドベリーは、今年で創業194年を迎えるチョコレートの老舗。
今年はイースター・シーズンに合わせてイギリスで公開された映画「ピーター・ラビット(Peter Rabbit)」とタイアップしたプレゼント・キャンペーンを展開しています。
イギリスでは一般的な紙の卵ボックスに入った卵と同じ大きさの4つ入りのチョコレート・エッグは兄弟や友達と分け合って楽しく食べられそう。
中型のチョコレート・エッグは大人の手のひらサイズ。
箱の底にミニ・エッグが入っていて、大きな方は空洞です。このように中型以上のものは中身は空のものが多いです。
・王室御用達
イギリス王室への納入を許可されたお店や企業が商品にその証しを表示することができる「英国王室御用達(ロイヤル・ワラント)」を持つ高級チョコレート・ブランド「プレスタ(Prestat)」。
今年は定番のミルク・チョコレートの他に、シャンパンやジンなどを使用したチョコレート・トリュフが中型のチョコレート・エッグの中に入った大人向けの商品を展開しています。
ロゴの上に輝くロイヤル・ワラントの紋章が一層の高級感を与えています。
お値段はスーパー価格で13.50ポンド(約2000円、2018.3.13現在)。
・スイスの定番チョコは三角を貫く
日本でも人気の「トブラローネ(TOBLERONE)」は、イースター仕様のパッケージですが形は崩さず三角のまま。
そこには小さなメッセージ「NOT ANOTHER EGG(また卵!じゃないよ)」。「卵形ばかりもらって飽きてたでしょ?」との意味が含まれているようです。
・定番品もいろいろ
キットカット、スニッカーズ、m&m’s、オレオ、スマーティーズなど、イギリスでも定番のチョコレート・ブランドのエッグはもちろん卵型になっても売れ筋です。
・イースターの意味を思い出して欲しい!
イースターの宗教的意味がどんどん薄れていく状況を懸念し、「ミーニングフル・チョコレート(Meaningful Chocolate、有意義なチョコレート)」社が、イースターを紹介する冊子付きで、キリストの絵と「イースターの本来の意味をお祝いしよう(CELEBRATE THE REAL MEANING OF EASTER)」と箱にプリントされたチョコレート「The Real Easter Egg」を2010年に発売しました。
発売当初は「宗教色を前面に打ち出した商品は売れない」との理由から、ほとんどのスーパーに置いてもらえなかったのだそう。
その後、イングランド国教会の支援を受け、教会や教会付属の小学校で販売しながら地道に販路を広げ、今では大手スーパーも取り扱うようになったのだとか。
フェアトレード(公正取引)のチョコレートを使用し、売り上げで得た利益は慈善団体へ寄付されているという、社会貢献も果たしている商品なのですが、筆者が見かけたスーパーでは、柱の後ろの一番目立たない場所に陳列されていました…。
・アレルギーがあっても安心
「ムー・フリー(moo free)」は乳製品、グルテン、大豆、GM(遺伝子組み換え食品)が含まれていないヴィーガン・チョコレート・エッグです。
このような食品の選択肢が多いのがイギリスのスーパーの良いところです。
・イギリスと言えばこれ!
見たまま、卵にサッカーボールがくっついています。男の子が喜びそうです。
・スーパーで一番高いイースター・チョコ
スイスのプレミアム・チョコレートブランド「リンツ(Lindt)」の定番商品、ゴールデン・バニーも、イースターにはジャンボ・サイズとなって登場。
ウサギは多産であることから、生命の象徴として卵同様イースターのシンボルとなっています。
このスーパーのイースター・チョコレートの中で一番大きな1キロ、値段は35ポンド(約5100円、2018.3.13現在)。
・卵に似ているというだけで商品化?
普通のスーパーの中でもちょっぴり高級なランクの「ウェイトローズ(Waitrose)」が発売し、大人気となっているのが「ウェイトローズ・チョコレート・アボカド(Waitrose Chocolate Avocado)」です。
この商品を探しにウェイトローズの大型店舗に足を運んだところ、なんとチョコレート・エッグの棚の中で唯一の売り切れ。
衰えぬ勢いの健康ブームの中で大人気のアボカドは、チョコレートになっても大人気でした。
・もはや卵とか関係ない
高品質な食品を売る「マークス&スペンサー(Marks & Spencer)」のイースター・コーナーに並んでいたのは、豚の形をした人気グミ「パーシー(percy)」のチョコレート、機関車トーマス、フォルクスワーゲンのキャンパー・バン。
生命の象徴はどこへやら?さすがにここまでくるとイギリス人たちもちょっと脱線しすぎ!?…と思っているでしょうか。
イースター近くにイギリスを訪れたら、スーパーのチョコレート売り場を覗いてみてください。
いつもよりたくさんのユニークなチョコレートが並び、ちょっと変わったお土産も見つかるかもしれませんよ。
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