地中海に浮かぶ島国、マルタ共和国の首都ヴァレッタ。

旧市街全体が世界遺産に登録されているこの美しい町は、ロドス島を追われ、マルタ島へと拠点を移した聖ヨハネ騎士団が築いた都市です。

聖ヨハネ騎士団は、聖地エルサレムへ巡礼に訪れたキリスト教徒の保護と、異教徒との戦いを担っていた十字軍の遠征を支えるため、12世紀に設立された宗教騎士団。

エルサレムで創設され、ロドス島やシチリア島など、ヨーロッパ各地を転々とした後、16世紀にマルタ島を借り受けます。

1565年のマルタ大包囲戦でオスマン帝国軍に勝利した後、ヴァレッタは騎士団によって要塞都市として整備されました。

長年にわたって騎士団の本拠であったヴァレッタには、今も当時の栄光を物語る騎士団ゆかりの地の数々が。歴史マニアならずとも魅了される、聖ヨハネ騎士団ゆかりの地を訪ね歩いてみましょう。

・聖ヨハネ大聖堂

ヴァレッタきっての観光スポットが、中心部にそびえる聖ヨハネ大聖堂。マルタ騎士団の守護聖人である聖ヨハネに捧げられた聖堂で、1573年から1577年にかけて建てられました。

外観はやや簡素な印象ながら、騎士団の富と権力を結集した内部は外観からは想像もできないほど豪華。

長さ57メートル、幅15メートル、高さ19メートルという壮大な身廊の天井は、聖ヨハネの生涯を表す天井画で彩られ、騎士たちの言語別に設けられた8つの礼拝堂は、目もくらむような黄金色の装飾や絵画などで「これでもか」といわんばかりに豪華に飾られています。

床一面を覆う、色大理石の文様にも注目。これは特に功績のあった団員たちを称えるための墓碑で、その数400ともいわれています。

天井から壁、床にいたるまで、騎士団がその名誉を賭けるかのように華麗に装飾を施した空間は、ため息なしには見られません。

大聖堂内部の美術館にある、バロック期に活躍したイタリア人画家カラヴァッジョの傑作「聖ヨハネの斬首」も必見。

この絵画は、カラヴァッジョ最大の作品であると同時に、彼が唯一サインを施した作品。大胆な構図と、光と影のコントラストが鮮烈な印象を残します。

・騎士団長の宮殿

パレス広場に面して建つ大きな建物が、1547年に完成した騎士団長の宮殿。現在は大統領府と議会として使われていますが、一部は博物館として公開されています。

ゲートをくぐるとまず現れるのが、100年ほど前まで騎士団の水飲み場として使われていた「ネプチューンの中庭」。海神ネプチューンのブロンズ像が飾られていることから、この名がつきました。

宮殿内部の廊下は、色大理石が床を覆い、甲冑が並び、重厚感たっぷり。こんな光景を目の当たりにすると「本当に騎士団がここにいたんだ」と実感し、不思議な感慨に包まれます。

ヨーロッパの主要な王侯貴族の宮殿に比べると控えめながら、鮮やかな赤が印象的な「大使の間」、大包囲戦の様子が描かれた「最高審議」の間など、豪華な部屋の数々に魅了されることでしょう。

騎士団長の宮殿の入場料には、併設の兵器庫の見学も含まれています。

18世紀の騎士団長の馬車や、騎士たちが使用していた甲冑や大砲、槍など、ヨーロッパ各地から集められた武器が所狭しと並んでいる光景は圧巻です。

・聖エルモ砦

騎士団によるマルタ防衛の重要な拠点となったのが、ヴァレッタの先端に位置する聖エルモ砦。1552年、迫り来るであろうオスマン帝国を迎え撃つために、2つの港と4つの角をもつ、本格的な砦の建設が始まりました。

有名な1565年のマルタ大包囲戦では、オスマン帝国の苛烈な攻撃により砦は陥落。多くの死傷者を出しましたが、最終的には騎士団が勝利し、オスマン帝国の侵略から島を守ることができたのです。

現在、聖エルモ砦の名物となっているのが、日曜日(不定期)に開催される軍事演習のパレード「イン・ガーディア」。

16~17世紀に騎士団が要塞と駐屯地で行っていた軍事演習の模様を再現したショーで、隊列を組んでの行進のみならず、剣舞、大砲や鉄砲の実演も行われます。

当時の雰囲気が感じられる迫力満点のイン・ガーディア。ヴァレッタ滞在期間中、日程が合えばぜひ観に行ってみてはいかがでしょうか。(一部日程は、騎士団長の宮殿前で開催されます)

・騎士団施療院

聖エルモ砦の向かいに建つ大きな建物が、16世紀に騎士団の病院として設立された騎士団療養院。建物の外観は、今も当時のまま残されています。

船から負傷した兵士や病人などをいち早く運ぶため、砦のすぐ近く、グランドハーバーに面した場所に設けられました。

そもそも、聖ヨハネ騎士団の起源は、11世紀にエルサレムに創設された、病院を兼ねた巡礼者宿泊所にはじまります。そのため、この施療院は、聖ヨハネ騎士団設立の背景と深いかかわりがあるのです。

騎士団施療院は、当時はヨーロッパ全体にその存在を知られていたといい、騎士たちはもちろんのこと、騎士団長も医師や薬剤師の助手としての役割を務めていました。

6室あった病室には、最大で2000ベッドを設置することができました。病室は常に清潔に保たれ、衛生上の理由もあって薬や食事は銀の食器で出されていたといいます。

現在博物館として公開されている施療院内部では、人形を使って当時の様子がリアルに再現されています。

・マノエル劇場

マノエル劇場は、1731年に騎士たちの娯楽のために建てられた劇場。外観は目立たないものの、ヨーロッパでも3番目の歴史を誇る、由緒ある劇場です。

シャンデリアとビロードの内装が美しい豪華な劇場は、約600人を収容可能。舞台正面のバルコニー席は、首相の専用席になっているとか。劇場内は、ガイドツアーにて見学することができます。

聖ヨハネ騎士団の足跡が今もはっきりと残る、世界遺産の町ヴァレッタ。聖ヨハネ騎士団の歴史を予習してから旅すれば、ヴァレッタの観光がさらに楽しくなることでしょう。

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