フランクフルトから南へ約30kmの場所にある町ダルムシュタット。大学や欧州宇宙運用センター(ESOC)をはじめとする様々な研究機関が集まるこの地は、学術都市としてその名が知られています。
一方で、芸術や音楽、文学活動が盛んにおこなわれ、「文化都市」としての一面も見せるダルムシュタット。なかでも町の東に位置する「マチルダの丘」にはアールヌーボー様式の建築が集まり、芸術や建築ファン必見のスポットとなっています。
現在はアールヌーボー建築が集まるマチルダの丘ですが、それ以前にはここに英国風庭園が造られていました。1833年に完成した庭園は、当時の大公ルートヴィヒ3世の妃から名前を取り、「マチルダの丘」と名付けられます。
その後1899年には最後のヘッセン大公となったエルンスト・ルートヴィヒがヨーロッパ各地から芸術家をあつめ、「芸術家村」を設立。設立当初はロシアの建築家レオン・ベノワやウィーン分離派にも参加していたヨゼフ・マリア・オルブリヒなど、当時を代表する芸術家や建築家がルートヴィヒの呼びかけに応じて集まりました。
マチルダの丘の象徴ともいえる建物が、オルブリヒの設計で1908年に完成した結婚記念塔。エルンスト・ルートヴィヒ大公とエレオノーレ妃の結婚を記念して市から贈られた塔では、今日も年間500組ものカップルが結婚式を挙げ、2人の新たな門出を祝福しています。
結婚記念塔からもよく見える場所にあるロシア教会。なぜここにロシア教会があるのか不思議に思う方もいるかもしれません。
その謎は、エレオノーレ妃の家族関係を見ると明らかになってきます。エレオノーレ妃はロシアの最後の皇帝であったニコライ2世の娘のひとり。この皇帝一家の訪問を記念し、ベノワの設計でロシア教会が建設されたのです。
丘を南側へ少し下ると、そこにはアールヌーボー様式の建物が集まります。
芸術家たちが細部にまでこだわった設計は、どれも当時としては斬新な物ばかりでした。
アールヌーボーの特徴ともいえるのが、花や植物のモチーフや曲線を使ったデザイン。その豊かな表現性は、見る者の心を満たしてくれるかのよう。
今から100年もまえに設計されたアールヌーボー建築の数々。その多くは現代の私達が目にしても、どこか新しさを感じずにはいられません。
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