皆さんは「薔薇の名前」という映画をご存知ですか?中世イタリアの修道院を舞台に、ショーン・コネリー扮する修道士ウィリアムが連続怪死事件に立ち向かうというストーリーで、1986年に公開されました。

理由が分からないまま修道士が次々に亡くなるという緊迫した物語と、冷静に事件の謎を解いていくウィリアム。そしてこの物語にさらなる厚みを持たせているのが、ロケ地となった美しくもどこか物憂げなエーバーバッハ修道院です。

エーバーバッハ修道院はドイツ、ラインガウ地方にあるシトー会修道院。修道院としての役目を終えた現在は内部を一般に公開しています。ロマネスク様式とゴシック様式の融合した建築が美しく、コンサートなどのイベントや結婚式の会場としても人気。

エーバーバッハ修道院の歴史が始まるのは12世紀のこと。当時フランスから広まったシトー修道会をドイツにも広めようと、クレヴォ―のベルナルドゥスは修道院長と12人の修道士をエーバーバッハの地に送ります。かれらは1136年に修道院を設立。修道院としての活動のほか初期からワイン生産も院内で行われ、その伝統は現在にも受け継がれています。

修道院内では、修道士たちがおくってきた厳しい日々の生活をいたるところで垣間見ることができます。そのひとつが修道士の寝場所だったこのホール。

リブ・ヴォールトと呼ばれる美しいアーチが印象的な、ゴシック様式のホール。修道士たちは冬も暖房がないなか、この場所で修道士装束に身を包んだだけの状態で就寝していたといいます。

厳しいドイツの冬を暖房無しで過ごすなんて、筆者には想像もできません。しかしこの美しいホールとは対照的に、私達の想像を絶するような過酷な生活が営まれていたのです。

厳しく質素に生きることを目指したシトー派修道会。彼らの理想はバジリカにも良く現れています。豪華な装飾が一切なく、まさに祈りをささげる為だけの場所だったバジリカ。

1186年に完成したバジリカは全長約80m。ロマネスク様式を基調としながらも、後に取り付けられた小チャペルなどにはゴシック要素が取り入れられています。

エーバーバッハ修道院では現在でもワイン醸造が行われ、高品質なワインは愛好家のなかでも高い評価を受けています。ワインショップのほか、レストランやお土産屋さんもあり、これらは修道院の入場券がなくても訪れることが可能です。

美しい建物のなかで、厳しい修道僧の生活が営まれていたエーバーバッハ修道院。映画「薔薇の名前」を鑑賞してから訪れれば、映画の世界観をより感じることができるはずです。

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