トルコといえば、最大都市イスタンブールと、奇岩群が連なるカッパドキアを思い浮かべる人が多いことでしょう。トルコを代表するこの2大観光地は、いずれもユネスコの世界遺産に登録されています。
しかし、イスタンブールの近郊に、ほかにも世界遺産があることは意外に知られていません。イスタンブールから日帰りで行ける世界遺産のひとつが、エディルネにあるセリミエ・ジャーミィ(セリミエ・モスク)。
トルコ北西部に位置するエディルネは、ブルガリアとギリシャに近い国境の町で、14~15世紀の90年間、オスマン朝の都として栄えました。イスタンブールのオトガル(バスターミナル)から、バスに乗って3時間前後で行くことができます。
セリミエ・ジャーミィは、1569年~1575年にかけて建造された、エディルネのシンボル的存在、。オスマン朝時代最高の建築家、ミマール・スィナンが手がけた建造物で、「トルコ随一の美しさ」との呼び声高い、壮大なモスクです。
セリミエ・ジャーミィの設計を手がけた当時、スィナンはすでに80歳。「イスタンブールのアヤソフィアを超えるドームをつくる」ことを目指した結果、アヤソフィアをわずかに上回る、直径31.5mの巨大ドームが完成しました。スィナンは生涯、このセリミエ・ジャーミィを自らの最高傑作と言い続けたといいます。
中央の大ドームを8本の柱が支え、それを5つの半ドームと8つの小塔が取り囲み、さらにその周囲に高さ70mのミナレット(尖塔)がそびえる、複雑かつ均整のとれたセリミエ・ジャーミィ。
その姿には、「高く、もっと高く。少しでも神に近づけるように」という、祈りにも似た思いが込められているように感じられます。
町の中心部、セリミエ・ジャーミィの全景を見渡せる場所には、スィナンの像が誇らしげに鎮座しています。
外観の壮大さもさることながら、内部装飾の美しさも必見。ドーム天井には精緻なアラベスクやカリグラフィーで彩られ、その下には、たたみかけるようにアーチが連なっています。内部に足を踏み入れた瞬間、あまりの美しさに息を呑むことでしょう。
セリミエ・ジャーミィの礼拝室の特徴は、内部がとても明るいこと。100枚以上の窓から、神の象徴である光をふんだんに採り入れる設計になっているのです。柱の配置を最小限にすることで、空間の一体化も叶えられました。
セリミエ・ジャーミィ内部で有名なのが、「逆さチューリップ」の存在。アーチに囲まれたミュエッズィン席の石柱には、逆さまに彫られたチューリップがあります。
「セリミエ・ジャーミィ建設のための用地買収になかなか応じなかった地主のひねくれた性格を表している」、あるいは「建設期間中に亡くなったスィナンの孫娘への哀悼の意を表している」など、その由来にはいくつかの説が。
あまりにも有名で、多くの人が触れたことでずいぶんとすり減ってしまい、今はカバーが付けられています。このほか、モスク内部には全部で101のチューリップがあり、それぞれに色や形が異なるといわれています。
イスタンブールのスルタンアフメット・ジャーミィ(ブルーモスク)に比べると、観光客がずっと少ないセリミエ・ジャーミィは、トルコのモスク本来の静寂が感じられる場所。
スィナンの「建築家人生の集大成」にふさわしい、厳かな雰囲気をたたえたイスラムの美がここにあります。
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