ドイツ有数の観光地であるドレスデン、その中心にあるドレスデン城。
金銀財宝の展示で知られる行列必須の「緑の丸天井宝物庫」で、13億円相当にのぼる宝石が盗難されるという事件が2019年11月25日に発生しました。
今なおドイツ全土の人々を震撼させているこの盗難事件ですが、実はルパンも顔負けの歴史的な美術品盗難事件がヨーロッパ各地でいくつも発生していることをご存知でしょうか?
今回は歴史に残る美術品盗難事件が発生した美術館を5つほど厳選してご紹介しましょう。
1. 13億円相当にのぼる宝石が盗難されたドイツ・ドレスデン城
今ヨーロッパで最もホットな盗難事件といえば、冒頭でもご紹介したドイツ・ザクセン王家に伝わる13億円相当の宝石類が盗まれた事件。
2019年11月25日未明、近隣で起きた発電所のトラブルによって警報装置が作動しなくなっていたドレスデン城の1階から、2人組の強盗が侵入。
ケースが破壊され、展示品の高価な宝石が盗まれてしまいました。
恐るべきは、この一連の犯行がしっかりと監視カメラに映っていた点です。
確かに現代はYoutuberなどを始めとする動画の時代ですが、まさか歴史的な盗難事件まで発生の翌日に全世界のニュースとして公開されるとは。
エルベ川百塔の都・ドレスデンの名声を高めるべく、世界の金銀財宝を集め、緑の丸天井の宝物庫を整備したザクセン王家の人々は誰も予想しなかった事でしょう。
現在、まだ犯人は捕まっていませんが、今や泥棒の手際の良さまでご自宅で動画で見ることができる時代。新しい時代の盗難として、ドレスデン城の盗難事件は長く語り継がれるに違いありません。
名称 ドレスデン城
所在地 Taschenberg 2, 01067 Dresden
公式ホームページ https://www.dresden.de/index_en.php
2. 日本で盗まれたあのロートレックの「マルセル」
夜のパリで生きる女性の美しさや華やかさを描いた、世界に名だたるポスター画家の1人といえばロートレック。
パリでの活躍が有名なロートレックですが、故郷は赤いレンガの建物が美しい南フランスのアルビ。
1968年、そのアルビにあるロートレック美術館から、京都国立近代美術館に貸し出されていた「マルセル」という絵画が盗まれてしまいました。
「マルセル」といえば、美しい女性の普段着の姿が魅力的な、ロートレックのあふれる才能を感じられる作品の1つ。
もちろん、当時もロートレックは世界的にも有名な画家のため、日本側は外交力を駆使してどうにか門外秘出の名画を借り受けた、という状況でした。
それゆえ非常に大きなニュースになり、新聞の1面にも取り上げられるほどでした。
必死の捜索活動の甲斐もむなしく、発生から7年後の1975年12月27日、「マルセル」は発見されることなく時効を迎えてしまいます。
下火になっていた「マルセル」に関する報道がふたたび脚光を浴びたのが時効成立後の1976年1月でした。
京都でなくなった「マルセル」が大阪の会社員夫婦の自宅で見つかったのです。
当時は時効成立後で十分な捜査ができなかったため、犯人や動機が不明のまま、その年の2月27日に「マルセル」はロートレック美術館に戻りました。
貸し出されていない期間なら、もちろん今でも、アルビのロートレック美術館で鑑賞することができます。
日本で盗まれて日本で発見された名画をフランスで鑑賞してみてはいかがでしょうか。
名称 ロートレック美術館
所在地 Palais de la Berbie, Place Sainte-Cécile, 81000 Albi,France
公式ホームページ https://jp.france.fr/ja/occitanie-sud-de-france/article/39851
3. ナチスに盗まれた市場価格100億円を超えるクリムトの傑作「黄金のアデーレ」
オーストリアでナチスに盗まれた、現在の価格で100億円以上とも言われる「アデーレ・ブロッホ=バウアーの肖像 I」、通称「黄金のアデーレ」。
このグスタフ・クリムトの代表的な絵画は、黄金に包まれた美しい女性の肖像で、その美しさから「オーストリアのモナ・リザ」とも賞賛されています。
この絵が生まれたのは1907年。
ウィーンのユダヤ系実業家のフェルディナント・ブロッホ=バウアーの注文により、妻アデーレをモデルにクリムトが3年の年月をかけて描いた絵画は、絵画技法に工芸技術を組み合わせることで従来の絵画表現にはない世界観を作り出した傑作でした。
1925年に亡くなったアデーレは、この絵をオーストリア政府が経営するベルヴェデーレ宮殿美術館に寄贈するよう遺言を残しました。しかし、夫のフェルディナントは妻の絵を手放すことを望まず、遺言を無視してそのまま持ち続けます。
その後、1938年にナチスがオーストリアを併合したことで、ユダヤ系のフェルディナントはスイスへ亡命、その際に「黄金のアデーレ」を含めたフェルディナントの財産は全てナチスに没収されてしまいます。
第二次世界大戦後、「黄金のアデーレ」を含む財産はフェルディナントの元に返却されることになりましたが、その返却の手続きが正式に終わる前に、彼は亡命先のスイスで亡くなってしまいます。
オーストリア政府は、アデーレの遺言のとおり、「黄金のアデーレ」をベルヴェデーレ宮殿美術館に収蔵してしまいましたが、ここにも問題が発生してしまいます。
実はアデーレの夫フェルディナントの遺言書には「アデーレの絵は姪のマリアに譲る」と記されていました。そのため「黄金のアデーレ」の所有権は2006年まで法廷で争われました。
最終的にマリアはその所有権を勝ち取り、その後、エスティローダー社のロナルド・ローダーに売却、現在はニューヨークのノイエ・ガレリエに展示されています。
名称 ベルヴェデーレ宮殿
所在地 1030 Vienna, Austria
公式ホームページ https://www.belvedere.at/en
※ベルヴェデーレ宮殿には「黄金のアデーレ」と並び称されるグスタフ・クリムトの「接吻」が展示されています。
4. ルーヴル美術館に不在のモナリザ
パリに行ったら、まずはルーヴル美術館でモナリザを見なければ、と、楽しみにしている人は多いと思いますが、実はこのモナリザが1911年8月22日から1913年12月12日の間、行方不明になっていたことをご存知でしょうか?
しかも、その盗まれ方は非常に単純で、モナリザは人気のない時間帯に壁から外され、服の下に隠されて持ち運ばれるという方法で盗まれてしまいました。
フランスが世界に誇るルーヴル美術館、しかも世界的名画のモナリザの盗難事件は国境が封鎖されるなどの大ごとになりましたが、2年以上も発見されない状態でした。
その後、モナリザはイタリアで発見されます。犯人はダヴィンチと同郷人のイタリア人。「故郷に盗難品を戻したかったのだ」と証言をした犯人ビンセンツォ・ペルージャ氏は数か月牢に入ったものの、釈放後は平凡な人生を送りました。
フランスは二度と盗まれないようにと、現在はモナリザ専用展示室で厳重に守られており、不用意な行動をとれば絵のすぐ傍に座っている警備員がすっ飛んできます。
麗しのモナリザは、その他に類を見ない美しさで難を逃れ、またモデルの女性の墓が掘り起こされるなどの悲劇を負いながら、今日もルーヴル美術館を飾ります。
名称 ルーヴル美術館
所在地 Rue de Rivoli, 75001 Paris, France
公式ホームページ https://www.louvre.fr/jp
5. 強奪品で構成された世界最大の美術館 イギリス・大英博物館
ヨーロッパ最大の盗難品の美術館といえば、もちろんイギリス、ロンドンの大英博物館です。
大英博物館で盗難が相次いだのではなく、この博物館そのものが盗難品で構成されている、と言う意味で有名です。
イギリス王室祭具の1つである大英帝国王冠をはじめとしたイギリス王室ゆかりの宝飾品はロンドン塔にあるため、イギリス固有の展示品といえば、僅か中世コーナーの1区画だけとなっています。
イギリスの強引な略奪の歴史は、日本にあるべき多くの浮世絵が大英博物館に収蔵されているという点でも、感じられるかもしれません。
とは言え、大英博物館が近年、ようやく返還に応じた宝物が、エジプトで、イラクで、イランで、過激派や内乱により粉々になってしまった事を思えば、「これは英国ではなく人類の宝」という彼らの姿勢も理解しない訳にはいきません。
何しろ厳重な警備によって守られた大英博物館の収蔵品を実際に見るための入場料は常時、無料なのですから。
名称 大英博物館
所在地 Great Russell St, Bloomsbury, London, Great Britain
公式ホームページ https://www.britishmuseum.org/visit?lang=ja
歴史的名品は時を経ても価値を損なわず、その上「幾ら金を積んででも欲しい」と人に思わせる魅力を持っているため、一度盗まれてしまうと多くの人々が目にする機会を失ってしまう、ということも多々あります。
ですが、それを取り戻す人々の熱意と技量も並みならぬもの。今日も我々のあずかり知らぬ場所で、犯罪者と天才との攻防が繰り広げられているに違いありません。
時を超え、場所を越えても、人に欲しいと思わせる、最高傑作の数々。過去の逸話を知れば、あなたの心も一枚の絵画に釘付けになるに違いありません。
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