ロンドン塔やタワーブリッジ、国会議事堂など、ロンドンを代表する名所が集中するテムズ川周辺。「ロンドンの大動脈」ともいえるこのテムズ川の上に、一風変わった観光スポットが浮かんでいるのをご存じでしょうか。
それが、イギリス海軍のタウン級軽巡洋艦「HMSベルファスト号」。第2次世界大戦から朝鮮戦争の時代にかけて活躍した本物の軍艦で、退役後の1971年以降、博物館として公開されています。
元軍艦の博物館というと、とっつくにくい印象を与えるかもしれませんが、めったに見られない光景の数々には、軍事マニアや戦艦マニアならずとも驚きと興奮を覚えるはずです。
HMSベルファスト号は、1936年にハーランド・アンド・ウルフ造船所で起工し、1938年に進水しました
第2次世界大戦下では、北極海へ向かう援ソ船団の護衛を担い、ノルマンディー上陸作戦を援護。朝鮮戦争にも参加した後、1963年軍艦としての役目を終えます。1971年には大英帝国戦争博物館の分館として公開されるようになり、現在に至っています。
「ベルファスト」の名は、北アイルランドの首府にちなんでおり、「HMS」とは「Her Majesty’s Ship」、つまり「女王陛下の船」という意味です。名目上とはいえ、軍艦も女王のものとは、さすがは王室の国イギリス。
ロンドン塔やタワーブリッジにほど近いロンドンの一等地、テムズ川に停泊するHMSベルファスト号。船に乗り込むと目に飛び込んでくるのが、ロンドン塔とともにモダンな高層ビルの数々が並ぶテムズ川の風景です。
タワーブリッジを正面に臨む景色はまた格別。
ロンドンを象徴する素晴らしいパノラマが見られるだけでも、HMSベルファスト号に乗船する甲斐があるといっても過言ではないほどですが、お楽しみはまだまだこれからです。
HMSベルファスト号は、全長187メートル、重量1万2000トン、6インチ3連装砲塔を4基搭載した堂々たる軍艦で、かつては950人もの乗組員が任務にあたっていたとか。実際に乗り込んでみると、テムズ川のプロムナードから見える姿よりもずっと大きく感じられます。
上層デッキに設けられた砲塔は大迫力。バックに見えるガラス張りのモダンなビル群とのコントラストが実にユニークです。
9段デッキからなる船内には、操舵室やエンジンルームをはじめ、乗組員のための食堂や商店、病院などのさまざまな施設が当時のまま保存されており、個性豊かな人形たちによって、往時の船内の様子が臨場感たっぷりに再現されています。
船の受付。乗組員がHMSベルファスト号に乗り込むとき、あるいは船を去るときにはここで報告を済ませる必要がありました。
1960代には毎日のように乗組員の出入りがあり、彼らの動きを把握するために報告制度が必要だったのです。
チャートルームでは、キャプテンとアシスタントが船の進路などを話し合い、航海計画を立てていました。
操舵席に座れば、海の男の一員になったような気分に!?
大量の配線が張り巡らされ、さまざまな計器が並ぶボイラー室の光景は圧巻です。
船内の郵便室。乗組員への手紙はそれぞれの船に配られる前に艦隊に届けられ、仕分けをされていましたが、それでも届け間違いは後を絶たなかったそうです。
船内の商店。乗組員たちはここでジュースやチョコレートといった嗜好品を買うことができました。
船上生活にあたっては、乗組員たちは8~12人単位でグループを作り、寝食を共にしていました。食事の際はグループごとに食事係を決め、配膳や片付けなどを行っていたといいます。
かつての乗組員たちが寝ていたのはハンモック。こんな環境で熟睡することができたのでしょうか。
それでもゲームに興じたり、談笑したりする乗組員たちの人形からは、リラックスした雰囲気が伝わってきます。
船内には歯科医院もありました。ひとたび航海が始まれば船上生活は長期にわたったため、乗組員たちは定期的に歯科検診や治療を受ける必要があったのです。
同様に、定期的な健康診断によって乗組員たちの健康維持が図られていました。病気になったりけがをしたりした乗組員はこのように別室で療養することができました。
これらはHMSベルファスト号の展示室のごく一部。迷路のような船内には多数の部屋があり、そこで船上におけるあらゆる活動の場面が再現されています。
軍事的な知識がなくとも、本物の軍艦の装備を見たり、当時の船上生活の様子に触れたりするだけで十分ワクワクするはず。
ツアーの観光客が訪れないちょっとマニアックなロンドンの観光スポット、HMSベルファスト号で知られざるリアルな軍艦の世界に触れてみませんか。
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