僕は二十代の頃から、20年ほど青木ヶ原樹海の取材をしている。このたび『樹海考』(晶文社)として、一冊にまとめさせてもらうことになった。

樹海は864年に起きた貞観大噴火によってできた。噴火の際に噴出した溶岩は北側に流れ、湖(せの湖)に流れ込んで埋めてしまった。埋め切らずに残ったのが西湖と精進湖だ。

その溶岩の塊の湖に、1000年以上かけて樹木が生えたのが、青木ヶ原樹海だ。

このようないきさつでできた森だから、当然地面は溶岩石で固い。地下に潜れなかった樹の根が地上をウネウネと這い回り、倒木が重なり、岩がゴツゴツと転がる、とても歩きづらい森だ。

遊歩道や参道は人工的に整備された道だ。そんな道が、樹海の中にはいくつも走っていて交差している。

そんな道を歩いていると、発見がある。

樹海は言わずと知れた、自殺者が集まる森だ。樹海の遊歩道には、自殺者に向けての看板が出されている。

『命は親から頂いた大切なもの
 もう一度静かに両親や兄弟、
 子供のことを考えてみましょう。
 一人で悩まず相談して下さい。』

という、鬱っぽい文面だ。

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