東ドイツ・ザクセン州のの学芸都市、ライプツィヒ。ゲーテやニーチェ、森鴎外がライプツィヒ大学で学んだほか、バッハやシューマン、ワーグナーといった偉大な音楽家たちも輝かしい足跡を残しています。

ドイツが東西に分断されていた時代、東ドイツの民主化を求める運動がここライプツィヒではじまりました。「東西ドイツ統一革命の出発点」として、ドイツ史ひいては世界史にその名を刻んでいるのが、ニコライ教会。

ライプツィヒ最大かつ最古の教会で、1165年にロマネスク様式で建てられ、16世紀に後期ゴシック、さらに新古典主義様式に改築されています。

ライプツィヒは商業都市として発展したため、商業の守護聖人である聖ニコラウスに捧げられたこの教会は広く信仰を集め、宗教改革後は市民の手厚い保護を受けて豪華な装飾が付け加えられていきました。

外観はいかにもドイツの教会らしい質実剛健な建物ですが、内部に一歩足を踏み入れるとまったく違った印象を受けるはずです。

シュロの木をかたどった列柱や愛らしい花の装飾が施された天井が印象的で、ドイツの教会としては珍しく淡いピンクやグリーンといったパステルカラーで彩られており、なんとも華やか。

これは、1784年から1797年にかけて建築家ダウテによってフランス様式を模した擬古典主義的様式に改築された結果生まれた空間。教会というよりはまるで劇場のようなドラマティックなムードをたたえています。

6804本のパイプと5段の鍵盤をもつパイプオルガンはザクセン州最大で、ドイツでも有数の大きさを誇るのだとか。

1723~1750年にかけて、バッハが指揮者として音楽活動を行ったバッハゆかりの地としても知られており、バッハの胸像が誇らしげに置かれています。

ここニコライ教会は、ライプツィヒ最古の教会であると同時に、ドイツ現代史においてきわめて重要な転換のきっかけとなった場所でもあります。

旧東ドイツ時代の1980年代、ここで東西冷戦下で平和のあり方を考える集会「平和の祈り」が開かれるようになりました。特に若い世代を中心に平和への祈りを捧げる人々が集まり、しだいに毎週月曜日に定期的に開催されるようになっていきます。

キリスト教徒であるか否かにかかわらず、自由や変革を求める人々が参加した結果、この集会の規模は拡大し、言論や政治活動、旧東ドイツからの出国の自由を求める教会外へのデモへと発展していきました。

1989年10月9日、7万人もの参加者が「我々国民こそが主権者だ」と叫びながら広場や通りを埋め尽くす大規模なデモが起こったことを機に、東ドイツ平和革命の口火が切られます。

ライプツィヒではじまった反体制運動はあっという間に旧東ドイツ全土に広がり、その1ヵ月後にはベルリンの壁が崩壊。1年後には東西ドイツの統一が実現したのです。

民主化の象徴ともいえるニコライ教会は、ライプツィヒの人々の誇り。教会横の広場の一画には、ニコライ教会内部の列柱をかたどった「ニコライ記念柱」が建ち、その足元には東ドイツ平和革命がはじまった日付と人々の足跡が刻まれたレリーフが設置されています。

東西ドイツ統一のきっかけとなった「平和の祈り」も、毎週月曜日17時から現在も絶えることなく受け継がれているといいます。

ただ教会として見るだけでも美しいニコライ教会ですが、「東西ドイツ統一革命の出発点」という歴史的重要性を踏まえて見れば、その感慨はひとしお。ドイツの激動の歴史に思いを馳せながら、壮麗なる空間を堪能してはいかがでしょうか。

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