イギリスを代表する美術館が、ロンドンの中心トラファルガー広場に鎮座する「ナショナル・ギャラリー」。

ロンドンを訪れた観光客の多くが一度は足を運ぶ美術館ですが、ナショナル・ギャラリーのほど近くにもうひとつのギャラリーがあります。

それが1856年に設立された「ナショナル・ポートレート・ギャラリー」。ナショナル・ギャラリーの別館であり、その名の通りポートレート専門の美術館です。

イギリスの歴史と文化に大きな影響を与えた人々を肖像画や写真、胸像といった形で紹介するユニークな美術館で、9000点を超えるというポートレートのコレクションは世界最大。

ロイヤル・ファミリー、シェイクスピア、ビートルズなど、中世から現在にいたる幅広い展示は、さながらイギリス史のダイジェスト版のようです。

3階(日本式4階)建ての館内には、時代別に1300点以上のポートレートを展示。最上階の3階(日本式4階)にはレストランあり、展示エリアはグラウンドフロア(日本式1階)から2階(日本式3階)までとなっています。

展示エリアの最上階にあたる2階では、15世紀のチューダー朝から19世紀初期までの作品、1階には19世紀なかばのヴィクトリア期から20世紀までの作品、グラウンドフロアでは、現代の作品の展示や期間限定の展示が行われており、イギリス史の流れをつかむには、まずは2階まで上がり、ワンフロアずつ下りてくるといいでしょう。

この美術館で最初のコレクションは、1610年ごろに描かれた文豪シェイクスピアの肖像画。

歴代のロイヤル・ファミリーのポートレートが充実しているのは「さすが王室の国」といったところで、古いものでは1625年に即位したチャールズ1世の肖像画があります。

チャールズ1世は王権神授説を唱え、議会と対立。1629年には議会を解散したうえ議会の指導者を投獄し、専制政治をしきます。1642年には王党派と議会派とあいだで内戦(ピューリタン革命)が勃発、1649年にホワイトホール宮殿のバンケティング・ハウス前で斬首刑に処せられました。

イギリス王室を語る上で欠かせない人物が、大英帝国の全盛期を象徴するヴィクトリア女王。

1837年、18歳の若さで即位したヴィクトリア女王が治めた63年間は「ヴィクトリア朝」と呼ばれ、政治・経済のみならず、文化面でも大きな功績を上げました。ロンドンには現在も、「ヴィクトリア&アルバート博物館」や「ロイヤル・アルバート・ホール」など、ヴィクトリア女王ゆかりの文化施設が多数残っています。

数百年前の王や女王のみならず、近現代のロイヤル・ファミリーの顔ぶれも揃っています。

現エリザベス女王のポートレートは、見る角度によってイメージが変化したり、立体感をもたらしたりするレンチキュラーで作成されたもの。昔の肖像画とはうって変わって、ずいぶんとモダンな印象です。

2011年にウィリアム王子と結婚し、一躍時の人となったキャサリン妃の顔もお目見え。

イギリス人画家のポール・エムズリー氏による作品で、キャサリン妃本人は「実に素晴らしい」、ウィリアム王子も「とても美しい」と賞賛しましたが、美術評論家からは「目に輝きがない」、一般人からも「実物よりも老けて見える」といった批判も上がった賛否両論の肖像画です。

あなたはこの作品をどう感じるか、ナショナル・ポートレート・ギャラリーを訪れる際にはぜひ注目してください。

ロイヤル・ファミリーといえば、死後20年以上を経てもなお世界中で愛され続ける故ダイアナ妃も忘れてはいけません。

ダイアナ妃の写真や映像にはどこか陰を感じさせるものも少なくありませんが、この写真ではリラックスした様子ではつらつとした笑顔を見せるダイアナ妃の姿に目を奪われます。

肖像画や写真ではなく、胸像で表現されている人物も。こちらは、危機にあった第2次世界大戦下のイギリスを圧倒的なリーダーシップで勝利に導いたウィンストン・チャーチル。

このように、ナショナル・ポートレート・ギャラリーでは、ロイヤルファミリーも、政治家も、音楽家も、俳優も、それぞれの立場を超えて「イギリスの歴史を彩った人物」として同じ空間に並んでいるのです。

「ここに行けば必ず見覚えのある顔に出会える」という意味では、ナショナル・ギャラリーよりも楽しめるといっても過言ではないかもしれません。さあ、あなたは誰に会いに行きたいですか?

Post: GoTrip! http://gotrip.jp/ 旅に行きたくなるメディア