かねてから問題視されていた仮想通貨取引大手、ビットフライヤー社やQUIONE社など、5社に対し、金融庁が業務改善命令を出す方向であるというニュースが日経新聞に掲載されました。その後、今日22日朝になって、具体的な業務改善命令が出て憶測が広がっています。

実際には当局筋の方針として「いきなり営業停止処分とするべき事案とも見えるが、それを行うと経営が立ちいかなくなり一般消費者など口座開設者の資産が守れないため、業務改善命令で経過措置を踏むことにした」と説明しており、ビットフライヤー社以下各社の対応をついては厳しく求めていくものと見られます。

18年1月に大規模な仮想通貨流出騒ぎを起こしたコインチェック社をはじめ、同じく業界大手のZaifを運営するテックビューロ社、またICT系GMOグループ傘下のGMOコイン社など、”処分先行組”もあるなかで仮想通貨取引の健全化を巡る動きはどうしても加速せざるを得ません。

逆に言えば、仮想通貨取引を行う一般消費者はそれだけ劣悪な取引環境に置かれ、いわば実弾背負ったカモとされてきたことを意味するわけで、ビットコイン(BTC)界隈の世界的な大きな流れとは全く関係なく「日本の仮想通貨関連業者は総じて問題を軽視している」(当局筋)という別の問題を引き起こしていたことはよく理解する必要はあるでしょう。

コインチェック社「持ってないコインを消費者に売る」商法と顛末(山本一郎) - Y!ニュース

https://news.yahoo.co.jp/byline/yamamotoichiro/20180130-00081027/

コインチェック社の場合は、取引している暗号通貨NEMの巨額流出が理由で問題となったあとに消費者軽視のずさんな経営実態が明らかになったのに対し、今回の問題もまた過熱する仮想通貨界隈の顧客獲得合戦の果てに顧客の取引ニーズに見合った設備投資や要員確保よりも取引ベースの拡大のための営業戦略・広報宣伝が優先された、という問題は大枠として指摘されます。

今回問題となった5社は、各々細やかな処分内容が異なりますが、もっとも問題とされたビットフライヤー社では、「仮想通貨を取引する口座の開設にあたっては、郵送での本人確認手順を踏まずに仮想通貨の取引や海外業者が管理するウォレットなどへの仮想通貨の送達などの機能も解放されていた。そのため、本人確認もできないかなりの数の口座が数十万単位で大量に開設され、二桁億円以上の仮想通貨がマネーロンダリングの一環として海外に払い出された怖れがある」(当局筋)とされ、強く懸念されてきました。

5月14日、毎日新聞が報じた「仮想通貨を利用した指定暴力団によるマネーロンダリング」においては、この本人確認が機能しないどころか実質的に行われていなかったビットフライヤー社など仮想通貨交換業者による架空口座の手による資金洗浄が行われていたことは確実視されていました。ビットフライヤー社に問い合わせをかけたところ「当社でマネーロンダリングに使われた口座があることは認識しておりません」(ビットフライヤー社CFO 金光碧氏)と回答していますが、ビットフライヤー社の関係者によると「そもそもKYC(本人確認手順)が行われておらず、システム側で開設された口座のどれが問題なのか、付き合わせようにも大量に口座がありすぎて分からない。本人確認できていない口座の総数は分かっても、それがどういう取引に使われたのか、まだ調べている段階」と回答しています(18年6月6日時点)。

また、ビットフライヤー社と同時に業務改善命令の出た別の業者は取材に対し「本人確認が完了していない400の口座から、少なくとも15億円相当の仮想通貨がルーマニアやフィリピン、イギリス・マン島の仮想通貨業者の管理するウォレットに不正に流出した可能性は否定できない」と説明しています。

実際、ビットフライヤー社がマネーロンダリングの疑いに晒され始めてから一年以上経過した18年4月12日、日本経済新聞の報道に押される形でようやく本人確認の徹底と未確認口座の機能制限を発表するに至ります。時すでに遅し、としか言いようがありません。

なぜKYC行き届かず、本人確認できない口座に対し仮想通貨取引や第三国への仮想通貨送付の機能が実装されていたのでしょう。その理由は「仮想通貨取引の口座数が多ければ多いほど、その業界で大手という信頼が得られ、顧客獲得の戦略上有利になることは間違いないから」と仮想通貨業界の関係者は説明しています。事実、ビットフライヤー社はその広告において「ビットコイン取引量・ユーザー数・資本金 No.1」と明記。これらのユーザー数やビットコインなど仮想通貨取引でかなりの反社会的勢力によるマネーロンダリングの資金が取り扱われていた可能性が否定できません。

消費者行政に詳しい弁護士はこれらの仮想通貨交換業者に対し「マネーロンダリングに使われる可能性を分かっていて本人確認の強度を弱めて口座開設者をかき集めていたことになり、悪質としか言えない」とし、本件は経過措置であって、業務内容に抜本的な改善が行われない限り、営業停止処分の可能性も捨てきれないとしています。

一方、追加で処分される可能性のある事項は複数あり、ビットフライヤー社においては特に「取引している顧客が発したオーダーをシステムが受けきれず、売買したはずの仮想通貨が取引されなかったため顧客が一方的に損害を蒙るケースが後を絶たない」(当局筋)としています。実際、口座を持つユーザーからは取引したはずの内容が反映されなくて損害を蒙ったという証言が相次ぎ、内部の管理体制に問題が確認されたマネーロンダリング対策や顧客の本人確認業務の不備以前の問題が指摘される状況です。

とりわけ、ビットフライヤー社などが提供する仮想通貨を取引の基準価格とする証拠金取引(FX)については、15倍以上のレバレッジ(信用)取引を顧客に提供しているにもかかわらず、基準価格となる仮想通貨の売買金額がそもそも曖昧です。また、ライトニングと呼ばれるFX取引においては、SFDと称する「実際の仮想通貨相場と、証拠金取引相場での乖離率が一定割合を上回るとペナルティとして売買手数料を多く取られる」仕組みが入っており、この取引を正当化する根拠が全くありません。

さらに、このSFDがペナルティとして乗るのか乗らないのかは注文を出し、取引が成立しなければ手数料が取られるのかどうかすら顧客には分かりません。そして、金融庁や警察庁に数多く寄せられたとされる通報は「ビットフライヤー社がSFDペナルティを取りたいからか、ずっとSFDペナルティが発生する乖離率に相場が操作されているように見える」という内容で、これは観ようによっては仮想通貨を利用したオンライン10円ポーカーと同じ賭場開帳図利にも似た状況になります。

https://bitflyer.com/pub/announcement-sfd-change-ja.pdf

実際、仮想通貨で証拠金取引を開始したある仮想通貨交換業者に対し、一昨年、ビットフライヤー社から「貴社は仮想通貨で賭博をやるのか」というクレームを入れた経緯があり、業界内でも評判になりました。その後、ビットフライヤー社も証拠金取引事業に参入するのですが、エクスキューズとして、非常に高率の手数料を設定した「現物渡しシステム」を準備しているので単なる証拠金取引ではないと標榜するに至ります。

あまりにもいろんな問題が続発するため、ビットフライヤー社代表取締役の加納裕三氏が副会長に就任した日本仮想通貨事業者協会の4月14日会合で、SBI社代表取締役の北尾吉孝氏がビットフライヤー社の本人確認の不備を指摘し副会長就任に疑義を呈した騒ぎも発生しました。

仮想通貨事業者が集まり、自主ルール策定に動き出した……のですが、もはやインサイダーも賭博紛いも誇大広告もICO詐欺も何でもありの無法状態に陥った仮想通貨業界が、一定の健全性を確保するためには、もはや金商法の枠内で証券業界と同様の規制の対象とするしか方法はないのだろうと思います。

また、1月下旬のコインチェック社問題以降、処分や指導の入っている事業者が2巡目、3巡目も当局の要求する管理水準に達しない場合は、今月中にも追加の処分が行われる可能性が高くなっており、その場合は管理の不行き届きが問題となっているZaif(テックビューロ社)やGMOコイン社、QUOINE社などから実質的な業界からの退場を余儀なくされる場合も出てくるのではないかと思います。

ビットフライヤー社に下された業務改善命令の内容を見ておりますと、こんな内容で今年1月には「東証に上場します」と大口投資家向けの資料が回ってきたのはいったい何だったのか、と感じるわけです。

ビットフライヤー社以下仮想通貨交換業者各社が、意図して暴力団に対するマネーロンダリングのサービスの口を開けていた、というわけではないということを心から祈っておりますし、一日も早い業務の健全化と再発の防止を願う次第です。

【業務改善命令の内容】

(1) 適正かつ確実な業務運営を確保するための以下の対応

① 経営管理態勢の抜本的な見直し

② マネー・ローンダリング及びテロ資金供与に係るリスク管理態勢の構築

③ 反社会的勢力等の排除に係る管理態勢の構築

④ 利用者財産の分別管理態勢及び帳簿書類の管理態勢の構築

⑤ 利用者保護措置に係る管理態勢の構築

⑥ システムリスク管理態勢の構築

⑦ 利用者情報の安全管理を図るための管理態勢の構築

⑧ 利用者からの苦情・相談に適切に対応するための管理態勢の構築

⑨ 仮想通貨の新規取扱等に係るリスク管理態勢の構築

⑩ 上記①から⑨の改善内容の適切性や実効性に関し第三者機関の検証を受けること

(2) 上記(1)に関する業務改善計画を平成 30 年 7 月 23 日までに、書面で提出

(3) 業務改善計画の実施完了までの間、1 ヶ月毎の進捗・実施状況を翌月 10 日までに、書面で報告