エキゾチックなコーカサスの国、アゼルバイジャン。日本ではあまり馴染みがありませんが、ヨーロッパと中東が混じりあったかのような独特の文化に惹かれる旅人は後を絶ちません。
そんなアゼルバイジャンで最も美しいといわれる町が、古都シェキ。首都バクーから北西におよそ300キロ、大カフカス山脈の南側に位置するアゼルバイジャン第4の都市です。
町のもともとの名称は「ヌハ」といいましたが、1960年に「シェキ」に変更されました。国内第4の都市といっても、人口はおよそ63000人。日本人の感覚からすれば小さな地方都市の趣です。
シェキの歴史はきわめて古く、町の起源は紀元前にさかのぼり、18世紀から19世紀にかけてはハーン(君主)の宮殿が置かれていました。
アゼルバイジャンの首都バクーとジョージアのトビリシ、トルコを結ぶ交通の要衝にあり、かつてはシルクロードの中継地として繁栄。それにふさわしく、古くから養蚕がさかんなことで知られ、19世紀以降はアゼルバイジャンにおける絹産業の中心地となっています。
首都バクーに滞在した後でシェキにやってくると、あまりの風景の変わりように驚くことでしょう。
砂漠を思わせる日差しの強い乾燥した大地に、砂色の歴史的建造物やモダンな高層ビルが建ち並ぶ港湾都市バクー。一方、コーカサス山脈を望むシェキは、緑に囲まれた湿潤な気候で、旧市街には石とレンガを組み合わせた古い家々が連なります。
次々と奇抜な建築物が誕生するバクーとはうって変わって、シェキの町は百年以上も前から時をとどめているかのよう。「シルクロード」という言葉がもつ独特のロマンが、今も生き続けています。
シェキ最大の見どころといえるのが、18世紀にこの地を統治していたハーンの夏の離宮であった「シェキ・ハーン宮殿」。
2層構造の建物で、部屋数は6室と、規模こそ大きくないものの、色とりどりのヴェネツィアングラスと細やかな木の細工で飾られた窓や、花や鳥などを表現したフレスコ画で彩られた内部は目を見張る美しさ。見れば見るほどその装飾の繊細さに引き込まれ、ずっと眺めていたくなってしまうほどです。
ステンドグラスと木工細工はこの地方の特産で、観光案内所のある建物で行われている伝統工芸品の展示販売や町の歴史博物館では、ステンドグラスと木を使った装飾窓やガラス細工が見られます。
シェキ・ハーン宮殿と並ぶもうひとつの見どころが、かつて隊商宿だった「キャラバンサライ」。
シルクロードを通り、中国とのあいだを行き来していた商人たちのために、シェキ・ハーンによって18世紀に建てられたもので、シルクロード上にある隊商宿としては、コーカサス最大を誇りました。
このキャラバンサライ、なんとホテルとして今も現役なんです。
馬が入ってこれる大きな中庭を囲むようにして客室が並ぶ光景を見れば、まるでタイムスリップしたかのような気分に。
客室内はいたって簡素で、「安宿」という表現がしっくりくる雰囲気ですが、石造りの空間はムード満点。何百年も前に、シルクロード商人たちもこの宿で寝泊まりしていたんだと考えるだけで、なんだかワクワクしてきます。
ライトアップされた夜のキャラバンサライはひときわロマンティック。日中はここに宿泊しない観光客も見学にやってきますが、静かな夜の中庭を貸切状態で楽しめるのは、宿泊者の特権です。
なお、シェキのキャラバンサライはインターネット上での宿泊予約は不可。電話予約は可能ですが、英語は通じにくいので、事前予約を希望する場合はアゼルバイジャンの旅行会社に依頼するのがおすすめです。
バクー旧市街に店舗を構える旅行会社「Tes Tour」は、バクーからシェキへのツアーを催行しているほか、キャラバンサライの予約代行も受け付けてくれます。
キャラバンサライは当日空きがあれば飛び込みでの宿泊も可能ですが、旅行シーズンには満室になることもあるので、確実に泊まりたい場合は事前に予約しておいたほうがいいでしょう。
「コーカサスのドバイ」とも称される首都バクーとはまったく異なるアゼルバイジャンの一面を見せてくれる、古都シェキ。
ゆったりと滞在して、周辺でハイキングなどを楽しむのもおすすめです。日本ではまだまだマイナーな観光地ですが、いち早くその魅力を発見してみてはいかがでしょうか。
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