どんな居酒屋にもそのお店に通う人々の思いが重なり、そしてそのたくさんの思いは居酒屋の持つ雰囲気となるのだ。
それゆえ、日本各地に多く人々を虜にする居酒屋がキラ星のごとく存在している。
例えば、あの吉田類も絶賛する大衆酒場、東京・江東区南砂町の「山城屋酒場」に、沖縄・石垣島で旬の魚介と沖縄料理を味あわせてくれる名店「居酒屋 錦(にしき)」、新潟の郷土料理からラーメンや洋食まで味わえる新潟市・古町の老舗居酒屋「喜ぐち(きぐち)」、北海道は小樽の絶品のおでんと日本酒を楽しめるお店「酒処 ふじりん」に、北海道随一の日本酒の品揃えと美味しいツマミのお店札幌市北区「味百仙(あじひゃくせん)」、食い倒れの町大阪では、魅惑の豚足を味わえる「かどや」に、鴨の焼き鳥が味わえる「とり平」、そしてあの開高健も愛したクジラのおでんが楽しめるたこ梅、さらには名古屋にいったら絶対に行っておきたい居酒屋「歓酒亭 大安(かんしゅてい だいやす)」などなど、数え上げればキリがない。
そんな美味しい居酒屋の中から、今回は、埼玉を代表する焼き鳥の町、埼玉県東松山市が誇る味噌ダレ焼き鳥のお店をご紹介したい。
お店の名前は、「大松屋」。
埼玉県東松山市は、池袋から東武東上線で約1時間の場所。
東武東上線・東松山駅を中心に、約50軒ものやきとり屋が存在し、夕方になると「やきとり」の文字の書かれた赤ちょうちんが灯り始めるこの町は、夕方になるとまさに吞ん兵衛に愛される町へと変化する。
・味噌ダレやきとり発祥のお店、それが大松屋
東松山駅東口を出て、徒歩8分の場所、やきとりの文字が書かれたのれんを掲げる「大松屋」は、この地で創業し、今年で62年を数える老舗中の老舗。
お店の創業は1956年(昭和31年)。
1956年(昭和31年)と言えば、朝鮮戦争による特需によって急速に日本が戦後から復興し、経済白書に「もはや戦後ではない」という言葉が記され流行語ともなった年。
世間では故・石原裕次郎さんが日活映画「太陽の季節」でデビューし、映画館新築ブームが到来、日本が国連加盟が可決され、国際社会に正式復帰し、経済が上昇曲線を描きはじめていた、そんな時代に、こちらのお店は産まれたのだ。
・「やきとり」であって、「焼き鳥」ではない、それが東松山のやきとり
実はここ東松山のやきとりは、一般的な「焼き鳥」ではない。
こちらの大松屋では、豚のカシラ肉を炭火で焼いたものを「やきとり」と呼んでいる。
東松山は周辺で養豚が盛んである上に、食肉加工センターがあったことがきっかけとなり、こちらのお店が豚のカシラ肉を炭火で焼いてみそだれで食べるメニューを提供し「やきとり」と言うようになったとのこと。
安価で安定して豚モツが仕入れられることから、戦後の混乱期において多くの関東の人々の胃袋を支えた東松山、その歴史こそが東松山のやきとりの歴史なのだ。
そんな歴史を踏まえて香ばしく焼き上げられた豚のカシラ肉に、大松屋特製の辛みそをつけて食べて味わえば、今なお多くの人々に愛されている理由がわかる。
豚のほほ、こめかみの部位であるカシラ肉は、筋肉がしまり、独特の歯ごたえと旨みを感じる。
実は東松山のやきとり屋は、皆同じ精肉店から仕入れたカシラ肉を使っているのだが、店によって柔らかさや大きさが違い、様々に特徴があるのだそうだ。くしの刺し方や切り方、焼き方などでその違いが生まれるそうだ。ここ大松屋の肉は、仕込みの際、よく包丁で叩いているため、柔らかい独特の食感が特徴となっている。
そんな特別な仕込みを施されて炭焼きされたカシラに唐辛子やしょうが、にんにく等を混ぜた大松屋特製の辛みそにつけて食べるのだから、たまらない。
こちらのお店は注文ではなく、わんこ蕎麦のようなスタイルで、お皿の中身が空になると、店主が焼きたての焼き鳥を一本ずつ持ってきてくれるスタイル。
店主とのアイコンタクトで様子を見てくれることもあり、安心して自分のペースで、やきとりを楽しめるスタイルなのだ。
様々な場所に存在する、地域で愛され育まれてきた美味しいグルメたち。
もし、そんな歴史も含めて美味しいグルメを味わいたいのなら、食欲の秋に美味しいグルメを味わう旅に出かけてみてはいかがだろうか?
普段下車する事の無い駅で町をさまよう、そんな街角からは、赤ちょうちんとのれんを掲げた店から、美味しい香りが漂ってきたのなら、自らの気の向くままに暖簾をくぐり、その町に溶け込むようにして、美味しいグルメを味わってみるのも、旅情の1つなのだ。
そしてそんな旅を経験したのなら、今よりももっと、日本の事が好きになってしまうに違いないのだ。
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お店 大松屋(おおまつや)
住所 埼玉県東松山市材木町23-14
営業時間 16:15~20:00
定休日 日曜日