フランクフルトの南30kmほどの場所にある町ダルムシュタット。大学や研究機関が集まる学術都市としてその名を馳せるほか、町の東に位置する「マチルダの丘」はアールヌーボー(ドイル語では「ユーゲントシュティール」)建築のメッカとして有名。オルブリヒやベノワといった20世紀初頭の著名な建築家が設計した家々が集まり、それらを一目見ようと訪れる美術・建築ファンは後を絶ちません。
そんなダルムシュタットにはもうひとつ、建築そして美術史における重要な建造物があります。
それが今回紹介する「ヴァルトシュピラーレ」。オーストリアの建築家フリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサーが設計した集合住宅は、彼の遺作ともなる建物です。
ヴァルトシュピラーレは1998年から2000年にかけて建設され、内部には105世帯が入居しています。外観に波線が多く描かれている様子は、無機質な直線を嫌い、自らが敬愛する「自然」を生涯にわたって表現しようとしたフンデルトヴァッサーならではの作風と言えるでしょう。
また建物の全体の形を見ても、そこには直線という要素が一切ありません。その証拠に、建物を上から見ると緩やかなUの字を描いています。
カラフルな壁の装飾や金色の王冠など、メルヘンの世界から飛び出してきた城を彷彿とさせる建物。1000個以上ある窓にはひとつとして同じ形のものがないというのにも驚きです。
目にする者の心をワクワクさせてくれるようなヴァルトシュピラーレ。一方で設計を手掛けたフンデルトヴァッサー自身は、建物が完成する数か月前に亡くなってしまいます。彼がこのメルヘンに溢れた完成像を目にする事は叶わなかったのです。
内部の様子はどうなっているのか、どんな人々がここに住んでいるのか。このメルヘンチックな建物を見ていると様々な想像が掻き立てられるよう。想像しだしたらキリがありませんが、謎の多さもまたヴァルトシュピラーレの魅力のひとつなのでしょう。
木々の間から顔をのぞかせる建物はまるで「自然との共存」を描いたかのよう。一見すると奇抜な外観の建物も、こうして見ると自然とうまく調和していると思いませんか?
ダルムシュタットの住宅街にひっそりと佇むヴァルトシュピラーレ。メルヘンチックでありながらどこか奇抜、それでもって自然とも見事に調和するその建物は、フンデルトヴァッサーがこの世に残したまさに傑作なのです。
Post: GoTrip! https://gotrip.jp/ 旅に行きたくなるメディア