ドイツ西部を流れるモーゼル川。流域の小さな町アルフの山中には、ライン川中流・モーゼル川流域で最古の城塞といわれているアラス城がひっそりとそびえています。
古城が各地にちらばるドイツにおいても、アラス城は知る人ぞ知る美しい城。アクセスは容易ではありませんが、それゆえ訪れる者にはこの上ない特別感を感じさせてくれる場所でもあります。
アラス城が建設されたのは950年。ノルマン人の侵入からモーゼル川流域の地域を守るべく、当時のプファルツ伯が山の上に城塞を築いたことでこの城の歴史が始まります。その後、城は最盛期を迎える中世にかけて拡張され、所有者もプファルツ伯からトリーア大司教へと変わっていきました。
最盛期には神聖ローマ皇帝ハインリヒ5世の助言役として帝国議会の決定に影響を及ぼすなど、城の権力は強大なものへ。城自体も巨大化され、リビング8ヵ所のほか寝室が14室もあったのだそう。計1000リットルのワインや野菜、穀物を貯蔵できた地下室もあったと伝えられています。チャペルではトリーア大司教が祀られ、騎士の間では重要な決定事項に関する協議などが行われました。
強大な権力を築いたアラス城ですが、1688年に勃発したプファルツ継承戦争でフランス軍により破壊されてしまいます。爆破を逃れたのは中心部のみでした。戦争が終わってからは城に住む者もいなくなり、この場所が石切り場として利用された事が荒廃にさらに拍車をかけました。
現在のアラス城は個人の所有となり、城博物館として一般に公開されているほか古城としても利用されています。古城ホテルの部屋はどれもシックで落ち着いたインテリア。実際に領主たちが使用していた部屋に滞在すれば、この城が歩んできた歴史の重みを直に体感できるでしょう。
古城レストラン・カフェは宿泊客以外の利用もできます。重厚な雰囲気の漂うレストラン内のほか、天気の良い日はテラスから山々を望みながらの食事も気持ちが良さそうです。
筆者が頂いたのはサケのムニエル。種類は多くありませんが食事のほかカフェメニューもあります。城博物館の見学後にここで休憩をするのもおすすめ。筆者が訪れた際には、周辺でハイキングをしてきたと思われるグループも何組か見られました。
アラス城へのアクセスには自動車が必須。または最寄りのBullay駅からタクシーを利用します。アクセスは簡単ではありませんが、「誰でも簡単に来れる場所でない」という事実が旅心をくすぐるのも事実です。
モーゼル川沿いの秘境にたたずむアラス城。かつて巨大な権力をふるった城も、今ではひっそりとその姿を隠し、選ばれし訪問者の到来を待っているのです。
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