ベトナムのLCC「ベトジェットエア」が成田と関西に就航し、ますます注目のベトナム最大の都市、ホーチミン。ホーチミンを訪れるなら一度は足を延ばしたいのが、ベトナム戦争の痕跡が残るクチです。
クチは、ホーチミンの北西約70kmのところにある町。もともとは小さな田舎町にすぎませんでしたが、ベトナム戦争下で郊外に地下トンネルが造られ、世界的に有名になりました。
地下トンネルの中から頭を出す人の写真は、ベトナムの旅行ガイドやパンフレットでおなじみですね。ホーチミン周辺の観光スポットとしては定番だけに、知ったような気になってしまいがちなクチトンネルですが、そのすごさは実際に行ってみなければわかりません。
ベトナム戦争当時、クチは、俗に「ベトコン」と呼ばれた南ベトナム解放民族戦線の拠点が置かれ、「鉄の三角地帯」と呼ばれた難攻不落の地でした。
アメリカ軍は、度重なる空爆と枯葉剤の散布により解放戦線の壊滅を狙いましたが、解放戦線は地下に潜ってゲリラ戦を展開。森に囲まれたクチ郊外に造られた手掘りの地下トンネルは、総距離約250km。
アメリカ軍は地下トンネルの存在を知りながらも、その複雑な構造を正確に把握することはできず、最後まで攻略することはできなかったのです。
ホーチミンからクチへの日帰り旅行は、ツアーの利用が便利。HISやJTB、TNKトラベルJAPANでは日本語ツアーを取り扱っているほか、シンツーリストをはじめ、格安の英語ツアーを扱う旅行会社も多数あります。なかでも、メコン川クルーズと組み合わせたものは、値段も安く、一番人気。
現在見学ができる地下トンネルは、「ベンユック」と「ベンディン」の2ヵ所があり、観光用に広げられた一部のトンネルには、実際に入ることもできます。
クチトンネルに到着したら、まずはベトナム戦争時の記録映画を鑑賞。ベトナムの人々がこの地でどのように暮らし、どのように戦ったのかが描かれています。
特に印象的だったのが、まだあどけなさの残る少女たちが、果敢にアメリカ軍に立ち向かっていくシーン。彼女たちにとって、米兵を倒し、街や家族を守ることは、絶対的な正義であったように見えました。
記録映画を鑑賞した後は、いよいよ地下トンネルに潜入。トンネル内は、当時の解放戦線兵士の衣装に身を包んだガイドさんが案内してくれます。
「思ったより広いんじゃない?」と思ってしまうところですが、これは観光用に広げられたトンネル。実際に使われていた地下トンネルは、米兵が入って来られないよう、もっと狭く造られていました。
観光用に広げられているとはいえ、身長150cmと小柄な筆者でも、身体を折らなければ前に進めないトンネル内。暗く、酸素も薄いこの空間で、息を潜めて暮らしていたなんて、ベトナム人の我慢強さに頭が下がる思いです。
かつて筆者は、クチトンネルとは戦いの際にのみ使われていたトンネルだと勘違いしていましたが、実際にはアリの巣のように張り巡らされた部屋の中に炊事場や病院、学校までもが設けられ、住民たちはトンネル内で生活を送っていたのです。
クチトンネルの構造は実に複雑怪奇で、一見するとどこに出入り口があるのかわかりません。
落ち葉をどけて、石の板を外せば、秘密のトンネルが出現。このトンネルの中にも入ることができますが、想像を絶するほど狭い!一人で入ったのはいいものの、一瞬どちらに進んでいいかわからなくなり、不安になってしまったほどでした。
少し歩くだけでも息が上がるほどなのに、さまざまな物資や武器を持ってトンネル内を移動していたわけですから、身体的にも、精神的にも、相当過酷な生活であったことは容易に想像できます。
クチトンネルでは、ここにやってきた米兵を撃退する恐ろしい罠も仕掛けられていました。これは「ブービートラップ」といわれるもので、布と枯れ葉で隠した穴の上に踏み込むと、毒が塗られた針の上に落ちてしまうというものです。
兵力ではとても敵わないものの、解放戦線の兵士たちは、頭を使ってアメリカ軍と戦っていたのです。
ベトナム人の賢さは、兵士たちが履いていたサンダルにも表れています。黒いサンダルは、タイヤでできたもの。物資の補給が十分ではなかったために、古いタイヤをリサイクルしてサンダルを造り、しかも自分たちの足跡をわからないようにするために、前後を逆にして履いていたというのです。
使えるものは何でも使おうと、米軍の不発弾を利用した地雷も造っていました。
どんな戦争であれ、それが人の命を奪うものである以上、戦争そのものを美化することはできません。
しかし、兵力や物資の面で圧倒的に劣っていたはずの解放戦線がアメリカに打ち砕かれることがなかったのは、「自分たちの国を守る」という強い意志と、ハンデを跳ね返す知恵があったからこそ。そのことには、素直に敬意を表したいと思いました。クチトンネルはまさに、ベトナム人の知恵と忍耐の象徴といえるでしょう。
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