京都市内中心部、三条商店街にひっそりとたたずむ昔ながらの喫茶店。

1932年(昭和7年)創業の「スマート珈琲店」は、京都に数ある老舗喫茶店のなかでも有名店中の有名店。京都人に長く愛され、俳優や文化人にもファンの多い、自家焙煎珈琲が自慢の名喫茶です。

印象的な「スマート」という店名には、「気の利いたサービスができる店を目指したい」という願いが込められているのだそう。創業時は「スマートランチ」という店名でしたが、戦後「スマート珈琲店」に改称し、現在に至っています。

京都を20回以上訪れている筆者も、何度も店の前を通り過ぎていながら、来店の機会を逃し続けてはや幾年…今回、ようやく足を運ぶことができました。

賑やかな寺町通り商店街から店内に一歩足を踏み入れると、そこは外界とは隔絶された空間。

落ち着いたダークな木の質感やヴィンテージ感漂う革張りのチェアが、一瞬にして半世紀以上前にタイムスリップさせてくれます。

京都の昔ながらの喫茶店は、喫煙のお店が多かったのですが、2020年4月からスマート珈琲店も店内全席禁煙に。タバコが苦手でも食事やお茶を楽しめるようになったので、非喫煙者にとっては嬉しい限りです。

レトロなコーヒー缶や、独特のシルエットのパネルが並ぶ店内は、「カフェ」ではなく「喫茶店」という表現がぴったり。

訪れたのは平日の朝9時前でしたが、すでに満席近い状態でした。地元の方とおぼしきお客さんの中には、静かに文庫本を読んでいる方もちらほら。京都の喫茶店って、紙の本が似合うんですよね。「この感じ、京都っぽくていいなぁ」と一人ほくそ笑んでしまいます。

スマート珈琲店の看板メニューは「ホットケーキ」。「パンケーキ」ではなく「ホットケーキ」というのがまた懐かしいですね。

初代オーナーの奥様のレシピで、親子三代ファンという常連さんもいるとか。このホットケーキ、スマート珈琲店によく通っていた昭和の歌姫・美空ひばりさんも好んでよく召し上がっていたそうです。

厚みのあるこんがりしたきつね色の生地が2枚重なったビジュアルは、なんだか絵本に出てきそう。昔ながらの、バターと自家製シロップでいただきます。

柔らかくフワフワした流行りの「パンケーキ」とは違って、密度と弾力のある生地。生地は極力甘さを抑えているため、バターとシロップの風味が生きるシンプルな味わいです。

まったく奇をてらわないスタンダードなホットケーキなのですが、そこが良いのです。幼少時代を思い出すような、昔懐かしい風味がたまりません。

ホットケーキとセットで注文したのは、ホットのカフェオレ。

見た目の色からもわかる通り、ミルク多めのライトな口当たりです。ほんのりコーヒーの酸味や苦みが感じられますが、重さはなくすっきりとしていて、朝にぴったりの一杯。

普段は紅茶派の筆者ですが、「このカフェオレを飲みに、またスマート珈琲店に来たい」と思ったほど。一番のお目当てはホットケーキでしたが、カフェオレの期待以上のおいしさは嬉しい誤算でした。

「京都の喫茶店には数々の名物メニューがあるけれど、そこでいただく名物メニューと同じかそれ以上に、その空間に身を置くこと自体に価値がある。京都の名喫茶とは、一種の文化遺産なのだ」

スマート珈琲店で過ごした時間は、改めてそんなことを考えさせてくれました。

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【お店の情報】
スマート珈琲店
所在地:京都市中京区寺町通三条上る天性寺前町537
電話:075-231-6547
営業時間:8:00 ~ 19:00
お店の公式ホームページ:https://www.smartcoffee.jp/