神奈川県南西部に位置する湯河原温泉は、万葉集にも詠まれるほど古くから伝えられる名湯です。明治時代には、夏目漱石や谷崎潤一郎など多くの文人墨客に愛されたことでも知られています。
そんな湯河原温泉の旧岩崎家別荘跡地の高台に建つ木造旅館が、2021年6月18日「ゆがわら風雅」としてオープンしました。
昭和初期の建築をほぼそのまま使っており、客室は露天風呂付き客室を含む全17室(全室禁煙)。こぢんまりとした、大人のためのレトロなおこもり宿です。
館内には日本文化を感じさせる調度品が点在し、日本庭園を望むレストラン、アートギャラリーやカフェライブラリー、浮世絵回廊などがノスタルジックな世界へ誘ってくれます。
日常の喧噪から離れ、温泉に浸かり、落ち着いた時間を過ごしたい大人のためのお宿です。
そんな「ゆがわら風雅」に実際に泊まってきたので、写真とともに紹介します。
■チェックイン
ゆがわら風雅の最寄り駅はJR東海道本線「湯河原」駅です。事前予約をしておけば無料送迎を利用できます(車で5~10分)。
チェックインは1階のレストランにて。レトロな旅館の佇まいからすると意外ですが、チェックインの手続きはタブレットのタッチパネルで行います。
ウェルカムドリンクは香りの良いほうじ茶と湯河原名物のきびもち。かつて源頼朝がこの地に身を隠した際、領主の妻が献上したと伝えられる地元の銘菓です。
チェックインを済ませ、受け取った鍵を持ってお部屋に向かいます。玄関近くの棚にはいろいろな柄の浴衣がサイズ別に用意されているので、気に入ったものをお部屋に持っていきましょう。
ゆがわら風雅は、洋服よりも浴衣でゆるりと過ごすのがぴったりのお宿です。
■温泉露天風呂付きスイートルーム「風雅」
ゆがわら風雅の客室は全部で17室ありますが、この日泊まったお部屋は、館内に1室しかない温泉露天風呂付きスイート「風雅」。
客室面積およそ96平米と非常に広いスイートで、ベッドは4台あり、4人まで宿泊可能です。
客室に足を踏み入れると、目の前に数段の階段があり、その先に廊下がまっすぐに伸びています。旅館の中の1室なのに、まるで一戸建てにいるようかのよう。
階段の手前、右側にある扉を開けるとベッドルームがあります。白とダークブラウンで統一された落ち着いた雰囲気の洋室で、ベッドマットレスはシモンズ社製です。
クローゼットの中にハンガーやタオル、温泉大浴場に持っていくカゴなどが用意されていました。
そして、こちらが廊下の先にある和室リビングと、続き間になっているもう一つのベッドルーム。非常に広く、4人で泊まっても窮屈感はないでしょう。
リビングにはあえてテレビを置かないのがゆがわら風雅流。静かな環境でゆっくりと流れる時間を楽しめます。しばしデジタルデトックスをしてみるのも良いかもしれません。
リビングの向こう側には、廊下を隔てて温泉露天風呂があります。
大人が2人で入ってもまだ余裕がある広さの露天風呂は、なみなみと温泉で満たされていました。木戸の向こうに見えるのは、緑豊かな湯河原の山々。
屋根は格子状になっており、開放感たっぷりです。日の光や吹き抜ける風も感じられます。
まだ日が高いうちから温泉を楽しむのもよし、時間を気にせず深夜に入浴するのもよし。上がった後は体の内側からポカポカ温かい感覚が続き、肌もつるつるになるのを感じました。
女子旅やカップルのお泊まりで、ほかの人を気にせずに心ゆくまで温泉を楽しめるお部屋です。
なお、スイートルームにはこの露天風呂のほかに髪や身体を洗うためのシャワー付きの内風呂も。こちらにはシャンプー、コンディショナー、ボディーソープが用意されています。
独立した洗面所もゆとりのある広さ。スキンケアや各種アメニティが揃っています。
(フェイス&ハンドフォーム、リキッドクレンジング、洗顔フォーム、モイスチャーローション、モイスチャーミルク、ヘアエッセンス)
備品としてヘアドライヤーがあるほか、フロントでヘアアイロンを借りることも可能です。
■温泉大浴場
ゆがわら風雅には、宿泊者専用の温泉大浴場「風雅のゆ」があります。
無色透明でやや塩分を感じる湯河原温泉は、温まりやすく冷めにくいのが特徴です。源泉からやや離れた位置にあるゆがわら風雅では、肌あたりのやわらかいお湯を源泉かけ流しで楽しめます。
小さめですが露天風呂もあり、外の空気を感じながら温泉に浸かれますよ。
温泉大浴場の利用時間は15時~24時と朝6時~9時。
■館内施設
ゆがわら風雅には、カフェ&ライブラリー、ギャラリー、浮世絵回廊などの館内施設があります。
カフェ&ライブラリー「牡丹」には、小説や懐かしのコミックス、雑誌が1000冊以上も!
こちらの『レディーミツコ』(大和和紀著/1977年刊)は、明治時代にオーストリア=ハンガリー帝国の貴族に嫁いだ日本人、クーデンホーフ光子の生涯を描いたコミックスです。
実はゆがわら風雅の建物はもともと「三枡屋」という旅館だったのですが、その三枡屋の初代女将がクーデンホーフ光子の姪だったそう。歴史を感じるエピソードですね。
お席では窓から日本庭園を眺めながら、コーヒーや紅茶を片手におしゃべりや読書を楽しめます。
コーヒーや紅茶はセルフサービスで無料です。キャビネットから好みのカップを選んで使えます。
カフェ&ライブラリー「牡丹」のオープンは15時~18時と21時30分~翌10時で、フリードリンクの提供は15時~18時と翌6時~10時まで。
掃き出し窓の外には下駄が用意されており、お庭の散策ができます。三枡屋時代からこのお庭の池に棲んでいる鯉が出迎えてくれますよ。
浴衣に和傘を差して歩けばなんともノスタルジックな気分に。このお庭は何十年も前から湯河原に訪れる旅人たちの目を楽しませてきたのでしょう。
ギャラリーミマスヤでは、旧施設「三枡屋」の歴史や由来を紹介するとともに、”カサブランカの宿”として名を馳せた三枡屋にちなみ、映画『カサブランカ』を上映しています。
先ほどクーデンホーフ光子の姪が三枡屋の初代女将だったと説明しましたが、実はその光子の次男リヒャルトは映画『カサブランカ』の題材となった人物。過去と現代がつながるようなお話です。
三枡屋がゆがわら風雅として生まれ変わっても、建物や家具、お庭とともに、歴史や文化もきちんと受け継がれ、大切にされているのが伝わってきました。
別館から新館へ通じる廊下には「花鳥風月」をテーマにした歌川広重の浮世絵が飾られています。回廊にある贅沢な欄間も一見の価値ありです。
広重花鳥大短冊撰より「月夜桃に燕」「白梅に寿帯鳥」「菖蒲に白鷺」など。人間国宝の岩野氏が漉いた和紙に再現された浮世絵を間近で見られます。
■夕食
ゆがわら風雅は料理もおいしいお宿です。夕食には、湯河原や伊豆の地産食材を使ったジャンルにとらわれないコース仕立てのお料理をいただけます。
ドリンクはビール、カクテル、ワイン(赤・白)、地酒、果実酒など豊富なラインナップ。今回は静岡みかんのミモザと富士宮産のコリアンダーを使用した地ビール”琥珀富士”を注文しました。
夕食は「極・雅・風」の3コースがあり、今回いただいたのはスタンダードコースの「雅」です。
前菜は畑の皿・海の皿・山の皿から構成されています。神奈川県産の野菜や果物、釜揚げしらすと桜エビなど、海と山に囲まれた湯河原ならではの旬の食材たっぷり。
湯河原の夜明け~パリの夕暮れオマージュ~と名付けられたスープです。下から、牛コンソメスープ、白だしのジュレ、かぼちゃの冷製スープが層になっています。
魚料理は伊豆名産の金目鯛と帆立のポワレ 白ワインと湯河原檸檬ソース。金目鯛は柔らかく繊細な味わいで、帆立は肉厚で旨みが詰まっていました。泡状のバジルソースも爽やか。
肉料理はオープンキッチンの鉄板で仕上げる国産牛のステーキです。
目の前に運ばれてきたあと、カット済みの牛肉ステーキを一切れずつ岩塩で炙っていただきます。薬味は天城山葵、ゆずポン酢、赤ワインマスタードをお好みで。
スタンダードコースですがお魚とお肉のダブルメインで、十分すぎるほど満足しました。
最後に運ばれてきたのは、サイフォンで仕上げる瞬間だしをかける茗荷と大葉の焼きおにぎり。
立ち上る炎、牛肉の焼けるジュウジュウという音と匂い、鯛のアラから出汁をとるサイフォンの音など、味覚だけでなく、五感で存分に楽しむことができました。
最後のデザートとコーヒーは、カフェ&ライブラリー「牡丹」に移動していただきます。
デザートは桃のコンポート、湯河原産檸檬を使ったレモンタルト、チョコレートケーキの3種盛り合わせ。ちょっと珍しい二層の泡だしアイスコーヒーとともにいただきました。
■朝食
朝食も夕食と同じく庭園を望むレストランにて。
畑の皿・山の皿・海の皿・洋の皿からなる小さなおかずのプレートに、トマトの印籠蒸し、目玉焼き、静岡県産厚切りベーコンとソーセージ、釜炊きご飯、白味噌とチーズのお味噌汁です。
ご飯はチェックイン時に指定した朝食時間に合わせて炊き上げられるため、ホカホカのつやつや。おいしい朝ご飯で元気をチャージできますよ。
食後にはカフェ&ライブラリー「牡丹」で温かいコーヒーをいただけます。このあとは読書をして過ごすのもよし、もう一度温泉に浸かるのもよし、チェックアウトまで滞在を堪能しましょう。
ゆがわら風雅は、ゆっくりと流れる時間の中で体とこころを解きほぐし、安らげるお宿です。
毎日がんばっている自分へのご褒美に、あるいは大切な人といっしょに特別な時間を過ごすために、今度の休みはこんな大人の隠れ宿でおこもりステイをしてみませんか。
【施設情報】
名称 ゆがわら風雅
住所 神奈川県足柄下郡湯河原町宮上261
最寄り駅 JR東海道本線「湯河原」駅
アクセス
・JR東海道本線「湯河原」駅よりタクシーで約10分(事前予約にて送迎あり)
・小田原ICより135号線で約35分
・湯河原パークウェイより県道75号で約20分
客室数 17室(全室禁煙)
※本記事で紹介した夕食と朝食は夏(6月~8月)のメニューです。仕入れ状況により内容が変更になることがあります。