開湯1350年を越える、信州を代表する温泉場「湯田中温泉」。湯量豊富な源泉が多数あり、さまざまなタイプの旅館が点在しています。そんな湯田中温泉に、2024年3月1日、全室天然温泉かけ流しの専用露天風呂付客室「松籟荘(しょうらいそう)」が開業しました。

この松籟荘は、2021年に火災により焼失した国の登録有形文化財の館「松籟荘」が、約3年の歳月を経て、全5部屋、温泉露天風呂・坪庭付きの離れとして再建されたものです。最大定員16名と小規模な“大人のための上質なお宿”で、最高のおもてなしを受けられます。(12歳未満は宿泊不可)

泊まっているお部屋の温泉露天風呂にいつでも入れるほか、斜め向かいにある姉妹館「よろづや」の登録有形文化財「桃山風呂」も無料で利用できるのも松籟荘ならではの魅力です。実際に宿泊し、温泉や料理を堪能してきたので、詳しく紹介します。

松籟荘の客室は全5室

松籟荘の客室は純和風の数寄屋造りの全5室。旧松籟荘の意匠を取り入れた空間は天井が高く、ゆとりと気品を感じられます。7代目館主の小野誠社長が「足を踏み入れたら別世界に誘われるような、思う存分温泉と美食を満喫できる理想の宿を創りたい」自らスケッチを起こし、長野市にある宮本忠長建築設計事務所に設計を依頼したものだとか。

1階の客室「なでしこ」「きく」「はぎ」は90〜95平米(定員4名)、2階の客室「こまくさ」「しゃくなげ」は60平米(定員2名)。すべてのお部屋に温泉露天風呂があり、坪庭の四季折々の景観を眺めつつ、心ゆくまで湯田中温泉を堪能できます。

「なでしこ」は、和を基調としながらもベッドを設置し、使いやすさを重視した和洋室です。主室、寝室、ダイニングの三間、専用のテラスと庭園、露天風呂からなり、ゆったりと過ごせます。今回はこちらの「なでしこ」に宿泊したので、後ほど詳しく紹介します。

「きく」は、旧松籟荘の伝統意匠を最も感じられる純和室のスイートルームです。主室、副室、ダイニング、専用のテラスと庭園、露天風呂からなる、松籟荘で一番広いお部屋となっています。

天然温泉かけ流しの湯が絶え間なく注ぐ天然温泉露天風呂は、信州の風も光も独占できる贅沢なプライベート空間です。

純和室「はぎ」は、客室と庭が調和した、木造数寄屋造り純日本建築の伝統美を感じる純和室のスイートルームです。主室、副室、ダイニング、専用のテラスと庭園、露天風呂からなり、客室とお庭の間に内土間が設けられているので内と外の調和を感じられます。

「こまくさ」は、松本民芸調の家具とツインベッドが置かれた畳の寝室と主室の二間からなる間取りのお部屋です。2階にありながらも坪庭が配され、季節のうつろいを感じられます。

同じく2階にある「しゃくなげ」も、主室と寝室の二間からなる間取りです。窓際のカウンターデスクからは坪庭が臨め、窓を開ければ心地よい風が通り抜けます。

テラスの天然温泉かけ流し専用露天風呂に浸かると、2階にいることを忘れてしまいそうです。

和洋室「なでしこ」宿泊記

今回は、1階にある94㎡の和洋室「なでしこ」に宿泊しました。主室、寝室、ダイニングの三間、専用のテラスと庭園、露天風呂からなるお部屋です。

広々とした主室と縁側の間にある欄間には、お部屋の名前にちなんでなでしこの透かし彫りが施されています。縁側からは坪庭と温泉露天風呂のあるテラスがよく見えます。

テーブルの上には干菓子とお花、手書きのメッセージカードが置かれていました。まだ建てられて間もない建物ゆえに木の香りが漂い、床の間の掛け軸、生け花、灯りなど、随所に日本の伝統美を感じる空間です。

主室の隣にある寝室にはベッド2台が置かれています。フランスベッドのマットレスが採用されており、寝心地抜群です。枕は好みに合わせて使い分けられる3種類。細長いものはリラックス効果があるといわれるトルマリンパイプと楠チップを使用したオーダーメイド枕です。

寝室、主室、縁側、坪庭が一直線に並んでいるので、ベッドの上からも庭の緑が目に入ります。二面の窓からも障子越しに柔らかい陽光が差し込み、心地よさを感じました。

寝室の隣にはダイニングルームがあり、夕食と朝食はこちらに運んでもらえます。部屋食は、ほかの宿泊者を気にすることなく食事を楽しめるのが魅力です。さらに、主室のテーブルに運ぶのではなく、別にダイニングルームに配膳してもらえるため、スタッフの出入りを気にせずに済みます。

廊下の突き当りはキャビネットコーナーで、上の棚にはタンブラーやワイングラス、キャビネットの上にはミネラルウォーターと電気ケトル、下の引き出しにはカップや湯呑み、扉の中には冷蔵庫が入っています。

嬉しいのは、冷蔵庫の中身もすべて無料でいただけること。缶ビール、ストレートりんごジュースのほか、長野県産りんごを使ったシードルや、志賀高原の麓にある造り酒屋「玉村本店」の純米酒「縁喜(えんぎ)」も冷やされていました。

クマザサやハトムギ、クコ茶、ハブ茶、エンメイ草をブレンドした健康茶「えんめい茶」、長野県木曽町開田高原にある「ヤマとカワ珈琲 焙煎所」のドリップコーヒー、長野県産のりんご(シナノスイート)・いちご(シナノベリー)・キウイ(ヘイワード)などを使った「和の果実茶」など、置いてある飲み物からも「信州を感じてほしい」という心遣いを感じました。

廊下の端にある戸を開けると洗面室があり、その奥のシャワーブースを通り抜けると、温泉露天風呂を設えたテラスに出られます。洗面台は2つあり、長野県佐久市にある「石鹸屋 ねば塾」に特注した松籟荘オリジナルのオリーブオイル石鹸が置かれていました。

総ヒノキ造りの温泉露天風呂には天然温泉が絶え間なく注がれています。昼、夜、朝と、いつでも人目を気にすることなく手足を伸ばし、心ゆくまで温泉を堪能できるのは、最高の贅沢。水音に耳を澄ませて温泉に浸かっていると、心身がゆるゆるとほぐれていく感覚を覚えました。

湯上りには、松の葉の模様を染め抜いた浴衣や遠州綿紬の作務衣を着てくつろげます。

押し入れには、日本古来から伝わる植物の力を融合した「warew(和流)」のスキンケア、歯ブラシ、ヘアブラシなどが用意されています。上質なオリジナルタオルやきんちゃくは持ち帰って構わないとのこと。備品やアメニティひとつひとつにも松籟荘の世界観が反映されています。

桃山風呂・庭園露天風呂

松籟荘に泊まると、隣接のよろづやの登録有形文化財である桃山風呂や庭園露天風呂、東雲(しののめ)風呂を無料で利用できます。せっかく湯田中に来たのなら、客室露天風呂だけでなく、歴史と風格を感じられる温泉大浴場も堪能しましょう。

よろづやの内観も豪華絢爛で、特に階段が絵になります。松籟荘のお部屋にかごバッグがあるので、着替えは小物はそれに入れていくと便利です。(タオルは大浴場に完備)

撮影のため許可を得てタオルを着用し入浴しています

桃山風呂は安土桃山時代の伽藍建築の粋を集めた温泉大浴場で、平成15年には国の登録有形文化財に認定されました。広々とした湯殿、クラシックな落ち着きと豪華さが他に類を見ない、日本の大浴場ベスト10にも選出された名物風呂です。

併設された庭園露天風呂では、信州の新緑や紅葉、厳しい雪の季節と、季節ごとの景観を楽しめます。なお、桃山風呂と庭園露天風呂は15時から21時30分が女性用、22時から9時30分までが男性用の入れ替え制です。(室内大浴場の東雲風呂が同じ時間で男女逆となっています)

料理(夕食・部屋食)

松籟荘では、信州の食材をメインに使い、細部までこだわった和食をお部屋でいただけます。
夕食の内容は月替わりで、今回は6月の「萬会席 夏の夕餉(水無月)」を紹介します。

最初に、食前酒として信州ワイン「シャトー メルシャン 椀子 ロゼ」が提供され、続いて、水無月豆腐に蛙に見立てたそら豆の蜜煮をのせた、季節感たっぷりの一品が運ばれてきました。

うすい豆摺り流し、鰻と胡瓜のうざく、信州福美鶏とごぼうの唐揚げ、丸茄子揚げ田楽焼き、とうもろこし真丈がきれいに並べられた器は、目にも鮮やかです。

鱧葛打ち、じゅん菜、蓮芋の清汁仕立て。かつおとまぐろの合わせ出汁が染みわたります。

鮮魚の盛り合わせ(この日はまぐろ中トロ、イサキ、イカ)は、鮫皮でおろした安曇野山葵(わさび)と加減醤油でいただきました。

青紅葉をイメージした涼しげな冬瓜饅頭は、崩しながらいただくと中から穴子・椎茸・百合根が出てくる楽しい一品です。

信州といえばやっぱり信州そばは外せません。コシのある手打ち信州そばは非常にのどごしがよく、かつおとさばで取った味わい深いだし、なめこおろしとの相性が抜群でした。

会席のハイライトは信州牛の朴葉焼きです。なんと、料理長がお部屋まで来て、目の前で料理の仕上げをしてくれます。全5室の小規模なお宿ならではのおもてなしでしょう。

青朴葉の爽やかな香りをまとった信州牛は驚くほどやわらかく、甘みがあります。炙られた信州味噌が香ばしく、コクがあって、箸が止まらなくなるおいしさでした。その土地ならでは、その季節ならではの美食を堪能できるのは、旅の楽しみの最たるものだと感じました。

地元・木島平のこしひかりの釜炊きごはん、釜揚げしらす、香の物、信州味噌汁をいただき、最後に夏の果物と葛切りをいただいて、大満足で夕食を終えました。どの料理にも新鮮な驚きがあり、ただ「おいしい」だけでなく、五感を通じて心を動かされました。

翌朝の朝食も同じダイニングルームでいただきます。希望した時間に合わせて、3段のお重と釜炊きごはんが運ばれてきました。

朝食は、白ごはん、味噌汁、塩鮭、トマト酢漬け、杏蜜煮、道明寺饅頭、だし巻き玉子、牛肉しぐれ煮、明太子、醤油豆、野沢菜漬け、自家製漬物、梅干し、野菜サラダ、果物とヨーグルトと品数豊富です。炊きたてごはんのおいしさも相まって、朝からおかわりしてしまいました。

ラウンジ 傳(でん)

松籟荘には宿泊者専用のラウンジ「傳(でん)」があり、長野県産ジュース、コーヒーなどを自由にいただけます。りんごジュースも桃ジュースもストレート果汁で、とろりとした濃厚なおいしさなので、ぜひ味わってみてください。

20時から22時30分まではアルコールもフリーフロー(無料)で楽しめます。ジャパニーズウイスキー(白州)、日本酒、梅酒、ワインなどのお酒に加え、ナッツやドライフルーツ、チョコレート、サラミといったおつまみもあって至れり尽くせりです。

静かに更けていく信州の夜。忙しい日常を離れ、とても安らいだ気持ちで過ごせました。

宿泊後記

松籟荘に実際に泊まってみて、間違いなく料金以上の価値があると感じました。専用の温泉露天風呂だけでなくよろづやの桃山風呂も堪能でき、信州の食材のポテンシャルと料理長の技を体感できる料理に舌鼓を打ち、ラウンジで長野県産のジュースやお酒をいただく…すべてが非日常で、極上の時間を過ごせます。

湯田中は東京駅から電車で約2時間30分かかりますが、松籟荘に泊まるために湯田中に行きたいと思える、“旅の目的地にしたい旅館”です。大切な人と特別な時間を過ごすために、あるいは、毎日がんばっている自分へのご褒美に、松籟荘を訪れてみませんか。

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名称 信州 湯田中温泉 松籟荘(しょうらいそう)
住所 長野県下高井郡山ノ内町平穏3071-1
アクセス 長野電鉄「湯田中」駅より徒歩約7分(送迎あり)
公式サイト 松籟荘 https://shoraiso.com/

※本記事で紹介した夕食と朝食は6月のメニューです。仕入れ状況により内容が変更になることがあります。

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