気候変動の影響が世界のいたるところで顕在化する今、「クリーンエネルギー」や、「循環型社会の推進」の重要性は、社会で広く認知されている。しかし、1社の企業が画期的な技術を生み出したとしても、その技術が消費者の生活に根差すまでにはさまざまな障壁が待ち受けている。

そのような現状に一石を閉じるべく、業界を超えたプロジェクトが、神奈川県川崎市でスタートした。

三菱化工機が主導する「MKKプロジェクト」とは?

7月3日、水素製造装置や資源循環の事業などを手がける三菱化工機株式会社(本社:神奈川県川崎市/代表取締役社長:田中利一)が、新たなプロジェクト「MKK PROJECT by 三菱化工機」(以下、MKKプロジェクト)の発足を発表した。

「MKKプロジェクト」とは、三菱化工機が中心となって、「共創パートナー」と呼ばれる企業や教育機関とともに、新たなビジネスモデルや、社会課題解決の糸口を見出す取り組みだ。

三菱化工機の常務執行役員で、イノベーション推進担当の林安秀氏は、新ビジネス戦略発表会の中で、クリーンエネルギー・循環型社会への移行のためには、技術だけでなく、ビジネスデザインが必要だと語った。

三菱化工機は、中長期計画の中で「クリーンエネルギー」である水素の普及を目指したエネルギー事業、持続可能な循環型社会推進事業に注力する方針を打ち出している。

国内に環境にやさしい技術はあるが、「経済効率性」という点でいまだ課題は多い。課題解決のためには「よいものを作る」だけでなく、ビジネスチェーンを俯瞰し、業種、業態を超えた取り組みが必要だという。

現時点では、株式会社DeNA川崎ブレイブサンダースや上智大学など、複数の組織が「MKKプロジェクト」への参画を表明している。

現時点で決まっているプロジェクトの概要をいくつか紹介していこう。

CO2を排出しない「世界基準のアリーナ」を川崎に

まず、三菱化工機がDeNA川崎ブレイブサンダースとともに立ち上げたのが、2030年に川崎市内で開業を目指す、「川崎新アリーナシティ(約1万5,000人収容予定)」を起点としたプロジェクトだ。

循環型のエネルギーを用いてCO2排出をしないアリーナを目指し、アリーナで出た食べ残しなどを施設内でエネルギー化の原料として循環させる構想を描いているという。

DeNAブレイブサンダースの取締役会長の元沢伸夫氏は、「川崎に世界基準のアリーナを作りたい」とその意気込みを語った。

上智大学との協業で「循環型農業」のビジネスの可能性を探る

さらに、上智大学との取り組みでは、循環型農業のビジネスとしての持続可能性を模索していく。農作物に、生産にかかったコストや労力を転嫁しにくい仕組みや、収益面の課題、農作物の廃棄の問題に対峙しながら、学生とともにサーキュラーエコノミーのビジネスモデルについて考案する。

上智大学の教授で、SPSF主任・経済学部教授の堀江哲也氏によれば、実験ファームや商品化を通じて、マーケットの動向を考察し、課題を探る体験型の講座を予定しているという。

多様性を強みとする街、川崎市。さまざまな技術と才能が融合し「カオスの中から多大なエネルギーがたまっている」と、三菱化工機の林氏は語る。川崎で生まれた新たなプロジェクトが、今後のエネルギー施策の1つのベンチマークとなるかもしれない。