先日、中国が「社会信用度の低い国民は、鉄道と航空機の利用を制限する」と発表した。
中国は2014年に「社会信用システム」を始めると発表した。個人情報を国が管理するシステムで「社会保険料を納めなかった」「電車の中で喫煙した」「テロについて間違った情報を広めた」など行為をした人にが対象になる。鉄道と航空機といえば、ベーシックなインフラである。それが国の一存で使えなくなるというのは怖い話だ。
僕も、中国の電車にはお世話になった。そしてほんの少しだけ怖い一面も見た。
前回の続きだが、僕は2017年の夏に中国の南部に旅行に行った。目的地は玉林市なのだが、日本からの直行便は出ていない。
日本から上海まで飛行機で移動し、国内線に乗り換え桂林まで移動。そこでガイドと合流し、中国の高速鉄道で玉林まで移動するという手はずだ。高速鉄道は日本でいう新幹線である。日本で新幹線に乗るのはとても簡単な行為である。だから全然緊張していなかったのだが、中国では事情が違った。
玉林駅は大きい施設なのだが、開けられた門戸は狭く人がズラリと並んでいる。
「パスポートを用意してください」
とガイドに言われて、慌ててカバンからパスポートを出す。そして外国人用の窓口に通される。テーブルにはカチッとした制服を着こんだ4人の男女の職員が座っていた。サービス業の笑顔は一切ない。
1人づつパスポートと僕の顔を見比べて、じっと睨め付けてくる。全員がパスポートを見終わった後、無愛想に質問をされた。
「観光ですか? と聞いてます」
とガイドが通訳したので
「はいそうです」
と答えると、4人で少しだけ相談した後、ポンっとパスポートを投げて帰した。
日本の鉄道には絶対にない、ふてぶてしい態度の公務員を見て
「中国ってやっぱり共産国家なんだな〜」
と自覚した。
その後の手続きをして、やっと乗車になった。乗ってしまえば、日本の新幹線と変わらなかった。
桂林と玉林はすぐ近くと言われていたが、それでも4時間ほどかかる。新幹線だと東京〜広島くらいの距離感だ。さすが大陸である。
「中国の高速鉄道の車内はマナーがなっていなくて、ゴミだらけでぐちゃぐちゃだ」という動画を見たことがあったので、期待していたのだが、とてもキレイだった。
大声でしゃべったり、電話や音声チャットをしたり、パソコンで大音量で映画を見たりゲームをしたりしている人はいたが、誰も気にしていないようだった。それらの行為は中国ではマナー違反にはならないようだ。多少騒々しいが、気軽でいい。
窓の風景は、いかにも中国なカルスト台地が続く。霞む山々が幻想的だ。
「最近はフルーツが儲かるんですよ。だから山の周りや、山の上までミカンを植えているんです」
と急に現実的なことを言われた。
中国の高速鉄道は、基本的に日本の新幹線よりも早い。300キロ以上の速度で移動する路線が多いのだが、南部は山が多いため日本と同じくらいのスピードだという。
「食堂車がありますよ。利用しますか?」
と言われた。せっかくだからと思って、行ってみる。
食堂車と言っても、インスタント食品を温めるか、お菓子やドリンクを買うだけの簡単なものだった。餃子とコカ・コーラを買う。 食べているとガイドに「美味しいですか?」と聞かれた。普通だったので「まあ美味しいですよ」と答えると、ガイドは楽しそうに笑う。
「高速鉄道のご飯、高くて不味いって有名です。中国人あまり買わない」
そういうことは買う前に言って欲しいものだ。
車窓から見える風景は、地域によってかなり差があった。柳州のあたりでは近未来のようなビル群が見えたし、100年以上前からあるのであろう古い村もあった。
中でも一番驚いたのは、とある駅で停車した時、対面の線路にズラーッと戦車が並んでいるのを発見した時だ。様々な車両が、シートもかけられず、むき出しで乗っている。
ホームにいる人は気にも止めていなかったので、さほど珍しいことではないのかもしれない。知らない国の車窓は飽きない。
朝の07時46分に桂林を出発した高速鉄道は、お昼頃に玉林に到着した。外に出ると、強烈な日差しに出迎えられた。緯度で言えば、沖縄よりも南なのだ。僕は帽子をかぶって街に出た。