芸術家たちが愛した南フランス、コート・ダジュール。高級リゾート地のイメージが強いこの地方にあって、静かな漁村だったころの素朴な雰囲気を残しているのが、イタリアとの国境の町・マントンです。
現在はフランス領でありながら、かつてはジェノヴァ共和国(現在のイタリア)やモナコ公国の領土だったこともあるだけに、黄色やピンクといったカラフルな建物に彩られた町並みはまさにイタリア。
イタリア語を話す人も多く、フランスとイタリアの文化が混じりあった独特の風景と雰囲気が訪れる者を魅了してやみません。
もともとは漁業とレモン栽培に頼っていた貧しい村でしたが、年間を通して温暖な気候に恵まれたマントンは、19世紀末からフランスやイギリス、ロシアの王侯貴族や富裕層のリゾート地となり、高級ホテルや豪邸が建ち並ぶようになりました。
「レ・ザネ・フォル(狂乱の時代)」と呼ばれた1920年代には、夜ごと奇想天外なパーティーや仮面舞踏会が開かれていたといいます。
今日のマントンは、華やかなリゾート地の雰囲気を残しながらも、享楽と喧騒とは一線を画した地元の人々の生活の匂いが感じられる町。
コート・ダジュール地方で最初に「芸術と歴史の町」に指定された町だけあって、旧市街にはこの地方で最も美しいといわれるバロック建築の町並みが残っています。
・ノスタルジックな旧市街
細い路地や階段が張り巡らされたマントンの旧市街。通りの両側には、赤や黄色、ピンクといったパステルカラーの建物が並び、南国の雰囲気が漂います。
マントンの旧市街の中心をなすのが、コート・ダジュール地方で最も美しいバロック建築のひとつと呼ばれる、サン・ミッシェル・バジリカ聖堂。
マントンがモナコ領だった17世紀、モナコ大公オノレ2世によって建てられた聖堂で、隣接する白苦業会礼拝堂とのコラボレーションが見せる風景は格別です。
細い路地に入り込めば、まるで時間が止まったかのような静寂が広がり、ここが海辺のリゾート地であることが嘘のよう。
あたたかな生活の匂いが漂うマントンの旧市街は、どこか懐かしくほっとするような心地良さで私たちを包んでくれます。
・高台からの絶景
旧市街の丘の上には「古城の墓地」があり、墓地前の展望台はマントンの旧市街とビーチを一望する絶好のビュースポットになっています。
段々畑のように連なる家々と、ところどころに顔をのぞかせる教会の塔が織り成す旧市街の風景は心奪われる美しさ。
その足元には、イタリアまで続く碧く澄んだ海が広がっていて、雄大な自然と歴史的な町並みが融合した絶景は忘れられません。
・冬でもあたたかい陽射しが注ぐビーチ
亜熱帯気候のマントンは、年間を通して温暖な気候に恵まれます。冬でもあたたかい陽射しが注ぐマントンは、冬の避寒地としてもぴったり。
冬になるとさすがに海水浴はできませんが、たっぷりの陽射しを浴びながら碧い海を眺めていると、すっかり冬を忘れてしまいそうです。
・名産のレモン製品
マントンの代名詞といっても過言ではないのが、名産のレモン。フランス産のレモンのなんと7割がマントンで収穫されるのだとか。
古くからレモン栽培を主要産業としてきたマントンでは、毎年2~3月になると世界的に有名なレモン祭りが開催されます。
さらに町を歩けば、レモンのジャムやリキュール、クッキー、石鹸、香水など、食品から化粧品までありとあらゆるレモン製品を売るお店に出会います。マントンを訪れたら、ここだけの珍しいレモン製品をゲットしてみては。
旧市街を散策する際は、レモンの町らしく、あちこちに散りばめられたレモンのモチーフもお見逃しなく。
・ジャン・コクトーゆかりの地
マントンと切っても切れない関係にあるのが、20世紀に詩人、小説家、劇作家、画家、映画監督などとして多方面で活躍し「時代の寵児」とも呼ばれたジャン・コクトーです。
マントンを愛したコクトーは、頻繁にこの地を訪れ、17世紀に建てられた要塞を自らの人生の集大成を納めた美術館に造り変えました。それが海辺にたたずむ「要塞美術館」。
コクトー収集家として知られる実業家、セヴラン・ワンダーマン氏のコレクションを中心として、2011年に新たに開館した「ジャン・コクトー美術館」と、コクトーが内装を手掛けた市庁舎の「コクトーの結婚の間」とあわせて、コクトーの世界に浸れる3スポットはファンならずとも見逃せません。
歴史と芸術、自然が見事に調和した、可愛らしい海辺の町・マントン。
気取らずのんびりと歩きたくなるこの町は、訪れた誰もを包み込んでくれる優しさとおおらかさを兼ね備えているのです。
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