レーザー照射にタコ揚げやワイヤー入りの風船飛ばし……。沖縄・基地周辺での米軍機への危険な迷惑行為は、なぜいまだ看過され続けているのか。この活動を”ささやかな市民活動”と擁護してきた琉球新報が、「世界最強の米軍の機体はレーザーや、風船で墜落するほど脆弱なのか」などと開き直りとも受け取れる記事を報じ、ソーシャルメディア上で物議をかもしている。
<金口木舌>県民を愛していますか:琉球新報
https://ryukyushimpo.jp/column/entry-717009.html
同紙は今月2日に米国・国防総省で行われたネラー海兵隊司令長官の会見で普天間飛行場の安全確保について「周辺住民がレーザーを照射したり、飛行経路でタコや風船を飛ばしたりしなければ(安全に)役立つ」と発言したことを受け、「相次ぐ事故で県民を危険にさらしながら、市民の抗議行動をやり玉に挙げるのは良き隣人のやることではない」と厳しく非難。さらに「過去の墜落や部品落下などの事故は米軍自身のミスなどによるものだ。再発防止や原因究明を徹底しないまま飛行を再開しておいて、隣人に責任転嫁するのは傍若無人が過ぎないか」と疑念を呈したのである。
もちろん米軍の墜落および不時着事故や部品落下など原因を究明することは、日米両国政府の責務である。だが、それが犯罪スレスレの迷惑行為を正当化する理由にはならない。過去に逮捕者すら出している、活動家らのデモを悪意なき市民の抗議と位置づけて良いものなのか。そもそも「オスプレイの墜落が心配」とデモしているはずなのに、事故につながりえるレーザー照射やタコ・風船飛ばしで抗議するのは本末転倒以外の何物でもない。
基地反対派からは、タコや風船でヘリや航空機に危険があるのかという声もあるが、鳥がエンジンの空気吸入口に吸い込まれる事故も多い。国内の民間機だけでも、エンジン損傷などで空港への引き返すことで発生した損失は毎年数億円程度にものぼるといわれる。「法的に問題がない」ですまされることではないのだ。レーザー照射にいたっては、今月3日にも、アフリカ東部ジブチで米軍機の操縦士が中国軍からレーザー照射を受けて、2人が負傷したという国際問題があったばかりである。
■法の盲点を悪用する危険デモ? 辺野古ではドローンによる飛行妨害も
では、なぜ危険な威嚇行為のデモが看過され続けているのか。実際のところ、取り締まる法の整備が追いついていないのが現状である。レーザー照射こそ、15年12月に普天間飛行場上空のMV22オスプレイなどへの夜間照射で50代の男が逮捕されているが、タコや風船については「航空法の対象外」であり、残念ながら取り締まれないのだ。冒頭の琉球新報の記事もそうだが、反対派はこの抜け穴を恣意的に利用して「市民の抗議である」と胡座をかいてきたフシがある。
反基地派の過激な風船デモがメディアで話題になったのは、05年に沖縄国際大学で行われたヘリコプター墜落に抗議するアドバルーンだった。普天間基地近くの同大学の屋上に風船を設置し、英語で飛行禁止地域を示す「ノーフライゾーン」と書いた垂れ幕を掲げた。この時、主催者の一人であった同大・井端正幸法学部教授はハッキリと「アドバルーンの高さ地上からおよそ60メートルに達しますが、普天間基地やアメリカ軍機には航空法が適用されていないことから大学側では法的に問題はないと判断しています」と述べている。
一方で、保守サイドも手をこまねいていた訳ではない。12年の国会で、当時野党だった自民党・佐藤正久議員(57)が同件を取り上げ、民主党政権が「米軍機の航行の安全が脅かされたり、米軍への脅迫や攻撃があったりした場合、 沖縄県警とその他の日本政府当局が必要な措置を講じることを期待する」答弁している。だが、同政権で国土交通省令を変更して風船・凧の規制されることはなかった。
http://www.sangiin.go.jp/japanese/joho1/kousei/syuisyo/181/touh/t181006.htm
New's Vision編集部で沖縄防衛局に取材をしたところ、「普天間上空における米軍機飛行ルートでの妨害の報告は、30年度では1件のみに留まっています。タコ揚げによる近隣からの通報です」(報道室・勝連氏)とのこと。社会的な批判も多かった為か、ここ最近はタコや風船による抗議は減少したようではある。
それでも法の盲点を狙った迷惑行為は手を変え品を変え、近年はドローンによる活動も報告されている。昨年11月には無人機(ドローン)がキャンプシュワブ上空の米軍ヘリの進路に入り、急ターンを余儀なくされたと、ハリス米太平洋軍司令官が小野寺五典防衛相に規制を訴えている。では、根本的な解決策はないのか。まつさと法律事務所・金沢幸彦弁護士は対処する方法がない訳でもないと話す。
「米軍機へのレーザー照射に限らず、タコ・風船飛ばしを行うことも『威力業務妨害罪』に該当する行為です。さらに、人間の鎖など基地工事の車の下に寝転ぶ行為も同様です。こうした違法行為を行う人たちは、これらは反対意思を言説だけでなく行動で示すという『象徴的表現』であると考えているのかもしれません。しかし、表現活動の名のもとに、他人の業務を遅延させたり危殆に晒すことが簡単に許されてはなりません」
ともあれ、米国側からの対処が寛容なのは同盟国であり、複雑な背景を持つ沖縄に配慮してのことである。27年間の統治を経て沖縄が真の意味に日本と一体とならば、時に厳しく、平等に法治国家としての襟を正さねばならないのではないだろうか。