マルタ島中北部、モスタと呼ばれる人口2万人ほどの町に、世界屈指の規模を誇るドーム教会があります。
それが、ローマのパンテオンをモデルにして、1860年に建てられたモスタ教会。
ドーム部分の外側の直径は、54.86メートル、ファサードの最も高い部分は74.37メートルに達し、内部空間に支柱のないドーム教会としては、ヴァチカンのサン・ピエトロ大聖堂、ロンドンのセント・ポール大聖堂に次いで、世界で3番目に大きな教会とされています。
設計を手がけたのは、マルタの建築家ジョージ・デ・ヴァッセ。
モスタの人口が増え、それまであった教会では手狭になったことから、大規模な新しい教会の建設計画が持ち上がりました。教会の建設にあたっては、とりわけ日曜や祝日には、男も女も、老いも若きも、モスタの人々が自ら手を貸して、教会の建設を助けたとか。教会建設の資金も、町の人々の寄付によって賄われました。
モスタはもともと敬虔なキリスト教徒が多かった地域で、16世紀の半ばには、116世帯に対して12もの礼拝堂があったといいます。モスタの人々の信心深さは、モスタ教会の建設にも発揮されました。
モスタ教会へのアクセスは、首都ヴァレッタから41番、42番、44番バスで約30分。スリーマからは、202番、203番のバスでおよそ40分です。
観光客でにぎわうヴァレッタやスリーマに比べ、のんびりとしたローカルな風情が漂うモスタの町。そんななかにあって、巨大なドーム教会の存在感は圧倒的です。
外装にはほかの多くのマルタの歴史的建造物同様、ハチミツ色のマルタストーンが使われていますが、内部は明るく開放的でモダンな雰囲気。
内装は聖母マリアの古来の呼び方である「海の星の聖母」から連想される海をイメージしたといい、白と淡いブルーを基調とした、優しい空間が広がっています。
マルタの教会といえば真っ先にその名が挙がる、ヴァレッタの聖ヨハネ大聖堂などとはずいぶん雰囲気が異なります。騎士団の威光を誇示するような、荘厳かつ華やかで男性的な聖ヨハネ大聖堂に対し、モスタ教会は、人民による人民のための教会だからでしょう。
このモスタ教会には、世界で3番目に大きなドーム教会という以外にも、有名な「モスタの奇跡」のエピソードがあります。
日本ではあまり知られていませんが、第2次世界大戦の激戦地となったマルタ。戦略的な位置関係から敵軍への攻撃の拠点となったために、その報復として恒常的に爆撃を受けていたのです。
1942年4月9日のこと。ドイツ軍の爆弾がモスタ教会に落とされました。爆撃が行われたのはちょうどミサの最中で、教会内には300人以上の信者が集まっていたといいます。ところが、その爆弾は教会の天井を突き破ったものの炸裂することはなく、モスタ教会では死者どころかけが人すら出ることはありませんでした。
このエピソードは奇跡として語り継がれており、教会の奥にある展示室にはこのときの不発弾のレプリカが置かれています。
さらに教会の天井をよく見ると、爆弾が突き破ったダメージを修復した跡が残っているのがわかるはずです。
モスタの人々がお金と力を出し合って建設した、モスタ教会。それを考えれば、ここで犠牲者が出なかったのは単なる偶然ではないような気がしてきます。
この教会には、現在も町の人々が入れ代わり立ち代わり祈りを捧げにやってきます。
マルタを訪れたら、単なる観光スポットではない現役の祈りの場、モスタ教会でその聖なる空気に触れてみてはいかがでしょうか。
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