2.金利の発生で可能になる配当割引モデルの活用
■a.配当割引モデルとは

また、DAppsを活用したビジネス創出で投資家に対する金利が発生すれば、配当割引モデルを活用した価格決定の試算が可能になる。

株式の現在価値は、一定の前提のもとでは配当割引モデル「配当D ÷(割引率r - 配当成長率g)」から算出することができる。ここでのDの部分をDAppsで生み出される金利の総額とすると、DAppsによる事業数、事業規模が増えるとDの総額も増加する。つまり、価格は上昇する方向に働く。

また、rの部分には、WACC(資本コスト)が影響する。WACCは「株主資本コスト×株主資本÷(有利子負債+株主資本)+負債コスト×(1−実効税率)×有利子負債÷(有利子負債+株主資本)」であり、負債コストの関数でもある。当暗号資産が使用されたDAppsによって創出される事業の質が上がっていけば、調達金利の低下という形で負債のコストも下がり、価格を押し上げる効果があろう。

株主資本コストは「リスクフリー・レート(R(f))+ベータ(β)×マーケット・リスク・プレミアム(R(p))」であり、価格のボラティリティであるβも影響する。価値の試算が可能になることで過剰なボラティリティが抑制され、価格が安定化すれば、こちらも価格を押し上げる効果があろう。

理論価格[P]=(配当金[D])/(期待収益率[r]-配当金の成長率[g])

WACC=D/(D+E)×(1-T)×rd+E/(D+E)×re
D:有利子負債の市場価値
E:株主資本の市場価値
T:実効税率
rd:負債コスト(利子率)
re:株主資本コスト=rf+β×マーケット・リスク・プレミアム

■b.金利となる暗号資産の価値が変わらないケース

例えばDAppsで使用されている暗号資産の投資家への金利利回りが3%だとすると、当暗号資産が100円であれば、円換算の金利は3円となる。当暗号資産の先行き価格が変わらないという想定では、将来の金利を(中小型株を念頭に置いて設定した)10%の割引率で割り引くと、現在価値は30円ということになる(簡便化のために金利成長率をゼロとした(以下同じ))。「当暗号資産の将来的な価値が変わらない」という想定のもとでは、割引率が高いこともあり、配当割引モデルから当暗号資産に投資魅力を見出すことは難しいだろう。

■c.金利となる暗号資産の価値が向上するケース

一方、既に述べた通り、資金流入効果やネットワーク効果を念頭に置くと、当暗号資産の価値は上昇することが期待できそうだ。

当暗号資産から得られる金利に対して「資金流入効果から想定される価値」、「ネットワーク効果から想定される価値」を当てはめ、それを10%の割引率で割り引くと、結果は大きく変わってくる。仮に「資金流入効果から想定される価値」、「ネットワーク効果から想定される価値」の向上で当暗号資産の価格が2倍になれば、暗号資産で投資家に支払われる金利が3%だったとしても、円換算での金利の利回りは6%になる。当暗号資産が100円であれば、円換算の金利は6円となる。将来の金利を(中小型株を念頭に置いて設定した)10%の割引率で割り引くと、現在価値は60円ということになる。

■d.割引率が低下するケース

価値の評価が可能になることによって、価格の安定度が増すようになれば、割引率も低下する。円換算の金利が6円、割引率が5%であれば、現在価値は120円ということになる。
DAppsで使用されるためには、価格の安定が必要である。当暗号資産の多くを保有する主体が一定のルールに従って、中央銀行のように買いオペレーションもしくは売りオペレーションを行うという仕組みがあれば、同様に割引率を低下させる効果を発揮する。

※当コンテンツは8月7日に株式会社フィスコがプレスリリースした『配当割引モデルを活用したDefi関連暗号資産の価格形成論』を4分割して配信している。

『配当割引モデルを活用したDefi関連暗号資産の価格形成論』目次
1.「資金流入効果」、「ネットワーク効果」による価値の向上
a.DAppsを活用したビジネス創出で価値測定ドライバーが出現
b.資金流入効果
c.ネットワーク効果

2.金利の発生で可能になる配当割引モデルの活用
a.配当割引モデルとは
b.金利となる暗号資産の価値が変わらないケース
c.金利となる暗号資産の価値が向上するケース
d.割引率が低下するケース

3.COMPの価値試算
a.予測の前提
b.「資金流入効果+配当割引モデル」による価値試算
c.「ネットワーク効果+配当割引モデル」による価値試算

4.その他
a.金利平価説
b.手数料

5.免責事項