島根県津和野町。「山陰の小京都」とも呼ばれるこの町は、古き良き日本の町並みが残る城下町でありながら、同時に外国文化の薫り漂う独特の雰囲気をまとっています。
小さいながらも唯一無二の魅力をもつ津和野へ、日本の地方の魅力再発見の旅に出かけましょう。
津和野は、島根県の南西部、山口県との県境に位置する盆地にあり、「つわぶきの生い茂る野」がその名の由来と言われています。
津和野に着いたら真っ先に訪れたいのが、日本五大稲荷のひとつ、「太皷谷(たいこだに)稲成神社」。「稲荷」ではなく「稲成」と表記するのは、「願いがよく成就するように」という思いが込められているからだとか。
「千本鳥居」といえば京都の伏見稲荷大社が有名ですが、太皷谷稲成神社にも千本鳥居があります。麓から本殿への道のりは少々しんどいですが、清浄な空気が流れる鳥居のあいだを歩いていくと、自然と心も洗われます。
霊亀山中腹に鎮座する本殿は、巨大なしめ縄と鮮やかな朱色が見事!
しかもこの境内は津和野の町を一望できる絶好のビュースポット。山あいにひっそりとたたずむ田舎町の風景にほっとさせられます。
太皷谷稲成神社を後にしたら、次は城下町を散策してみましょう。太皷谷稲成神社への参道と城下町中心部のあいだ、津和野川沿いに一風変わった像が見えます。
これは、津和野の弥栄神社に伝わる古典芸能神事である「鷺舞神事(さぎまいしんじ)」の様子を表したもの。津和野に伝承されて400年の歴史をもつ神事で、毎年祇園祭りの7月20日と7月27日には町内各所で伝統の舞が披露されます。
国の重要無形文化財にも指定されている貴重な神事、一度は観てみたいですね。
鷺舞の像から歩いてすぐ、旧武家屋敷や旧藩校が並ぶ「殿町通り」は、津和野を代表するスポット。
通り沿いにある堀割には、立派な鯉がたくさん泳いでいます。この堀割は、江戸時代初めに津和野藩主・坂崎直盛によって造られたもので、水路に発生する蚊の幼虫を駆除するために鯉が泳がされたのだそうです。
なまこ壁が続く通りは「いかにも城下町」といった風情ですが、ひとつ異色の建物が…
それが、ドイツ人神父シェーファーによって建てられた「津和野カトリック教会」。西洋ゴシック建築ながら不思議と伝統的な城下町の風景に溶け込み、津和野の町並みをどこか現実離れした幻想的な光景に見せています。
礼拝堂内は全国的にも珍しい畳敷き。こぢんまりとした空間ながら、色とりどりのステンドグラスが陰影を作り出す光景には、思わずため息が漏れます。
津和野カトリック教会を訪れたら、ぜひ「乙女峠マリア聖堂」にも足を延ばしてください。「乙女峠」というロマンチックな名前とは裏腹に、ここは津和野の暗い歴史を語り継ぐ場所。
乙女峠マリア聖堂は、明治の初めに弾圧を受け殉教したキリシタン殉教者を追悼するために建てられたものなのです。
浦上四番崩れで弾圧され、流罪になったキリシタンのうち、およそ153人が津和野へ流刑となりました。そして、そのうち37人が津和野藩の改宗のすすめに応じず、拷問によって命を落としたのです。ジブリ映画に出てきそうな可愛らしい外観をした聖堂のステンドグラスには、拷問の様子が描かれています。
「山陰の小京都」と呼ばれる津和野には、穏やかな自然に囲まれた風光明媚な城下町としての顔と、命を賭して信仰を守りぬいたキリシタンの殉教地としての顔、まったく異なる2つの顔がありました。
今、時を超えてその2つの顔が共存していることこそが、ノスタルジックな津和野の最大の魅力なのかもしれません。
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