6月6日より日本からの入国制限が解除されたドイツ。入国前に実施したコロナテストの陰性証明が必要になるなどまだ以前の様に気軽に旅行ができる状況ではありませんが、まずは一歩前進したことを嬉しく感じている人も多いでしょう。
そんな中、ドイツ観光局はリカバリーキャンペーンである「German Local Culture」キャンペーンを開催。15日にはプレス発表会が行われ、今後のキャンペーン展開ほか、都市観光やワイン造りに代表される「食」、自然体験といったコロナ後の観光で力を入れていくテーマが紹介されました。
これに関連し、本記事ではドイツを象徴する町並みのひとつである「木組みの家」に注目。
ドイツらしさが十分に味わえる木組みの町10ヵ所から、それぞれの異なる雰囲気や魅力を紹介します。
ドイツには木組みの骨組みで造られた家や教会などが約250万件あり、中にはユネスコ世界遺産に登録されているものも。ひとことに「木組みの家」といっても色使いや街並みとの調和、辿ってきた歴史が唯一無二の雰囲気をつくり出し、町を巡るごとに独特の雰囲気が楽しめます。
マールブルク
グリム兄弟ゆかりの地をむすんだ「メルヘン街道」の町マールブルク。メルヘン街道はフランクフルト近郊にあるハーナウから北上し、ブレーメンまで続く約600kmの道のりです。かつてグリム兄弟が法学を学んだ地であり、彼らが学生時代に住んでた家は現在も旧市街の一角に残されています。
市庁舎のある広場を中心に木組みの家が整然とならび、その美しさには息をのむほど。マールブルクは学生街でもあるため、若者が多く町全体が活気にあふれています。
旧市街の散策を楽しんだら、丘の上にある方伯城までのぼってみましょう。文化史博物館として利用されている城の周辺には、中世に魔女狩りの犠牲者を閉じ込めていた「魔女の塔」も残されています。
そしてこの町で見逃せないのが、町のあちこちに置かれているグリム童話関連のオブジェ。シンデレラの靴やカエルの王様、白雪姫の鏡など16のスポットが隠れているので、全制覇を目指して探してみるのも楽しいですよ。
ヴェルニゲローデ
魔女伝説が残るハルツ地方には、日本ではほとんど知られていない可愛い町が点在しています。
そのひとつがヴェルニゲローデ。ゴスラーやクヴェトリンブルクと並んでハルツ地方では人気の町で、北ドイツ最高峰のブロッケン山頂まで行くSLもこの町から発車します。
町の中心にあるマルクトまで続く道には木組みの家が続き、まるでメルヘンの世界に迷い込んだかのよう。市庁舎近くにある「カフェ・ウィーン」をはじめ、所々にひときわ豪華な装飾の家も潜んでいます。
とんがり屋根がトレードマークになっているヴェルニゲローデの市庁舎は、ドイツで最もキュートな市庁舎。周辺には歴史ある建物が並び、ホテルやカフェなどとして利用されています。
このほか広さ10㎡と町で一番小さな家「クラインステハウス」や、町の裏手にそびえる城が注目スポット。4月40日に開催される「ヴァルプルギスの夜」では魔女に仮装した人々が町にあふれ、普段の可愛い街並みから一変して神秘的な光景が広がります。
ゴスラー
ヴェルニゲローデと同じくハルツ地方にあるゴスラーは、銀の採掘で栄えた町。11世紀には神聖ローマ皇帝ハインリヒ3世が居城を築き、その後13世紀にかけて町では帝国会議が頻繁に開かれました。旧市街と町はずれにあるランメルスベルク鉱山は世界遺産に登録され、ハルツ地方でも1、2を争う人気観光地のひとつです。
ゴスラーでは建物の多くに「スレート」と呼ばれる石材が使用され、太陽の光を受けた町並みが銀色に輝きます。同じハルツ地方の町でも、さきほど紹介したヴェルニゲローデとはだいぶ趣が異なりますね。
銀で繁栄した町の歴史を物語っているのが、あちこちで見かける豪華な装飾がほどこされた木組みの家々。この地方に伝わる魔女伝説も関係しているのか町全体もどこかドイツ離れしたエキゾチックな雰囲気で、そこがまた魅力でもあります。
旧市街の外れにそびえるのは、ハインリヒ3世が築いた皇帝居城。彼の心臓が安置されている地下礼拝堂ほか、2階「帝国の間」にあるドイツの歴史や伝承を描いた68枚の巨大な絵が見所です。
そして町の郊外にあるのが、ランメルスベルク鉱山。968年から1988年まで1000年以上もの間ここで銀の採掘が行われ、ゴスラーに富をもたらしました。現在では博物館として公開され、鉱山の歴史や実際に使用されていた器具の数々、厳しい労働環境などを知ることができます。
ツアーでは鉱山の中へ。実際に鉱山で働いていた人がガイドとなり、当時の話を聞けたり実際に採掘機械を動かしてみたりとなかなか興味深いです。ゴスラーの歴史において重要な役割を果たした場所であり、旧市街と併せてぜひ訪れたいスポットです。
ベルンカステル・クース
ベルンカステル・クースは、ワイン産地として知られるモーゼル川沿いに佇む町。ワイン畑に囲まれた小さな町には15~16世紀に建てられた木組みの家がひしめきあい、つかのま中世へのタイムスリップが楽しめます。
市庁舎が立つ広場周辺は、町の中で最も賑やかなエリア。ワインショップやカフェ、お土産屋さんが軒を連ね、店先でワイングラス片手にお喋りに興じる人々の姿も見られます。
迷路のように細い路地が入り組み、角を曲がるごとに可愛い発見も。こちらに迫ってくるかのような木組みの家は迫力満点で、これほどの街並みを築き上げた中世の人々には脱帽です。
町はずれからワイン畑の中を上っていくと、トリーア大司教が夏の離宮としても使用していたランツフート上がそびえています。廃墟になっている城の一部はレストランとして使用されており、地元産のワインを味わう事も可能。
城からはモーゼル川とワイン畑がおりなす絶景が楽しめます。太陽が照りつける中、町からここまで上ってくるのは大変ですが、美しい風景と気持ちよいそよ風がその苦労を忘れさせてくれるかのようです。
シュヴェービッシュ・ハル
シュヴェービッシュ・ハルは、南西ドイツのマンハイムからチェコのプラハまで続く古城街道に属する町。「ハル」がケルト語で「塩」を意味することからも分かるように、紀元前にケルト人が住んでいた頃から町では製塩が行われていました。
中世には製塩に加えて銀貨の鋳造もはじまり、町はみるみる裕福に。旧市街をうめつくす立派な木組みの家々は、塩と銀貨が町にもたらした富の象徴でもあります。コッハー川の対岸から望む旧市街は、この町のハイライト。木組みの家が幾重にも重なる大迫力の光景に息をのむことでしょう。
市庁舎のある広場周辺は、ほかとは少し異なる優雅な雰囲気。というのもこの辺りは18世紀の火災で多くの建物が焼失し、その後はバロック様式で再建されたからなのです。
4年の歳月をかけ、1735年に完成した市庁舎。ファサードには神聖ローマ帝国の紋章である双頭の鷲が誇らしげに掲げられています。市庁舎前は11月末から開かれるクリスマスマーケットの会場でもあり、毎年初日に行われるアルプホルンの演奏は名物のひとつです。
人口約4万人の小さな町に、可愛さがぎゅっと詰まったシュヴェ―ビッシュ・ハル。観光客も少なく、のんびりと散策をしながら町じっくりと町の魅力が味わえます。
エスリンゲン
シュトゥットガルト郊外にあるエスリンゲンは、かつてシュヴァーベン地方(シュトゥットガルト周辺からバイエルンにかけてのエリア)で最も守りの固い城塞都市だった町。現代にまで受け継がれる美しい街並みは、数々の戦禍やペストの流行といった困難を何度も乗り越えたこの町の勲章でもあります。
旧市街への入口となるのが、ロスネッカー川に架かる橋。橋の上からは中州に立つ木組みの家ほか背後には立派な教会の塔も見え、どんな街並みが待っているのだろうと想像力を掻き立て間ます。
町の中心に立つ市庁舎は、この町で最も美しいと言われる建物。鮮やかな色合いに染まったルネサンス様式の優雅なファサードが目を引き、思わず立ち止まって眺めてしまうほどです。
市庁舎の裏手は、保存状態の良い木組みの家が密集するエリア。パステルカラーの木組みの家が次々と目にとびこんできて、まるで絵本のページをめくっているかのようでもあります。
町の中でもひときわ立派な木組みの家は、ドイツ最古のゼクト醸造所である「ケスラー」の建物。1826年にこの場所でドイツ初のゼクト醸造所が設立され、現在ではドイツ政府レセプションの公式シャンパンにもなるなど国内外で高い評価を受けています。
醸造所のガイドツアーではゼクト造りの伝統を体験できるほか、ショップでは試飲をしながらお気に入りの1本をじっくり選ぶことも可能。匠の技がつくり出した伝統の1本をお土産にしてみるのも良いですね。
ゲンゲンバッハ
ドイツ南西部に広がる黒い森も、知る人ぞ知るかわいい街並みの宝庫。中でもゲンゲンバッハは花で彩られた歴史的な町並みから「宝石のような町」と称され、一度訪れれば誰もがたちまちファンになってしまう場所です。
この町のシンボルともいえるのが、ロココ様式と新古典様式の要素を取り入れた壮麗な市庁舎。11月末からはじまるアドヴェント期間中にはこの市庁舎が世界最大級のアドヴェントカレンダーに変身し、扉に扮した窓が毎日ひとつずつ開けられていきます。
市庁舎前を通るメインストリートから小路に入ると、そこにも雰囲気の良い通りが続きます。家の壁にブドウの木がはっている様子は、ワイン生産地ならでは。
特に趣のあるのが、「エンゲルガッセ」と呼ばれるエリア。町で最も美しいと言われているのがここで、ゼラニウムの飾られた家並みからはどこか素朴でほっこりとした優しさも感じられます。
宝石のように美しい街並みをとどめながら、ローテンブルクをはじめとする有名観光地にくらべて観光客が圧倒的に少ないのもゲンゲンバッハの魅力。のんびり町歩きを楽しみながら、ドイツの新たな魅力が発見できるでしょう。
ドイツ観光で楽しみにしている人も多い木組みの町並み。ひと言に「木組みの町並み」といっても色使いや家の形は様々で、町が辿って来た歴史もあいまって唯一無二の景観をつくり出しています。
ローテンブルクの様な超有名観光地もあれば、今回紹介したような日本ではほとんど知られていない町も沢山。自由にドイツ旅行が出来るようになったら、ぜひ今回で紹介した町も参考にしながら木組みの町並みめぐりを楽しんでみてください。今まで知らなかった新たなドイツの魅力に気付けるかもしれません。