「退職代行」「残業キャンセル界隈」、最近はこんな言葉が聞かれるようになってきた。自ら退職を願い出ずに退職代行サービスを利用したり、たとえ業務が残っていても定時に退社したり。主に若手社員いわゆるZ世代(29歳くらいまでの年齢層)の行動は、40〜50代の中堅社員にとってはある意味新鮮な驚きでもある。若手社員の価値観や考え方、働き方の違い、ひいては離職率の高さといった悩みを抱える中小企業は少なくない。
中小企業における人材確保と定着を見据え、去る2025年10月9日、「中小企業で働くZ世代の離職を防ぐ人事課題解決策」と題したラウンドテーブルが日本人事経営研究室株式会社(東京都渋谷区)で開催された。
■“いつでも転職できる環境”の実態、企業側のビジョンの示し方とは
「今の日本はいつでも転職できる環境になっていること、そして、若手新入社員が入社した後に感じるギャップ。このふたつが大きな要因といえます」と話すのは、日本人事経営研究室株式会社 代表取締役 山元浩二氏。組織成長・進化の仕組みづくりのコンサルティングを長年担い、ビジョン実現型人事評価制度を日本で初めて開発。著書の『小さな会社は経営計画で人を育てなさい!』(あさ出版)はベストセラーになっている。
山元氏によれば、直近14年間で転職サイトへの登録者数はなんと約30倍に増加。現状、転職すれば多くの場合は給与が上がるという。やりたいことを探すというよりは、給与アップのための転職。転職のハードル低さも社員の定着が進まない理由のひとつであるようだ。
同社は全国の中小企業で働く18〜29歳の一般社員100名を対象に職場環境に関する調査を実施(調査機関:2025年8月13〜14日)。その結果、入社半年以内に退職を検討した経験があると回答した人は約3割だった。さらに、退職検討の理由1位は「給与や待遇への不満」48.3%。この結果はさまざまなデータにおける転職理由のトップにも共通するという。
「私はこの25年間、人事評価制度に携わり続けています。実はこの1位の理由である給与や待遇への不満のその裏にあるのは評価制度なんです。評価はきちんと本人に伝えられて、それが納得いった上で、賃金制度もある。この評価結果だからこの賞与になるというのがわかる仕組み。これが確立されていれば、1位の理由は圧倒的に減るはずなんです」
と、山元氏。また、山元氏が提唱する人事評価制度とは、賃金評価制度と賃金制度、評価の結果を昇級賞与と結びつけるというルール。どういった評価結果を得れば昇給するのか役職が上がっていくのかという昇進昇格制度の仕組み。Z世代に限らず、筋道が明確になれば個々の展望は描きやすくなり将来への不安も軽減されるはずだ。
「人事評価制度を確立していくことで将来像が見通せ、Z世代の方々にはメリットとして感じてもらえます。また、自分の過去の履歴が全部わかるような仕組みになっていますので、どのくらい成長してきたという実感やキャリアプランが持てるようになります」
大半の企業では人事評価制度と会社の経営計画が別物として動いている。しかし、このふたつを連動させる「ビジョン実現型人事評価制度」を運用することが結果としてZ世代のやりがいや働きがいにつながるという。
「経営計画では、組織全体の将来の目標が明確にされています。ビジョン実現型人事評価制度は、その組織のビジョンや成長に合わせた自分自身の成長計画が描ける仕組みになっています。社員全員が中長期的な1人1人の将来の年収目標も測ることができ、会社における人生設計も具体的になっていきます」
企業のベクトルと社員個人のベクトルが同じ方向で進むこと。具体的にキャリアプランを描ける若い世代ほど成長のモチベーションが上がり気概にもつながることが期待できる。
■理想の職場と現実のギャップ、その原因は一体なにか
Z世代の離職の要因を考える上で、もうひとつ挙げられるのが入社後に感じるギャップだ。同社の調査では、約7割の人が「(ギャップを)かなり感じたことがある」18%、「少し感じたことがある」51%と回答している。さらに、具体的にどのような点でギャップを感じたのか(複数回答)という問いで、「成長機会がなかった」29%、「職場の雰囲気や文化が自分に合わなかった」29%、「業務の進め方や指示が不明確だった」21.7%という回答に着目する。
「ここでポイントになるのは2番目に多かった成長機会がなかったという回答です。意外と高いんです。3番目の職場の雰囲気や文化が自分に合わなかったという回答はまさに経営理念や経営計画。上位を占めている回答はビジョン実現型人事評価制度があれば解決できる問題なんです。さらに、勤めている企業は自分の成長機会が十分に与えられているか? という問いではZ世代の約6割は成長の機会が足りないと感じているという結果も出ています。企業側は成長の機会を与えていると思っていても、働く側からすると足りないと感じているギャップ。具体的には、業務の幅が広がらない、スキルを学ぶ機会がない、フィードバック不足といったことが挙げられています」
同社は企業側(経営者、人事担当者)への調査も行なっている。Z世代社員に対して成長やキャリア形成のために施策を講じていると思うか? という問いに、約6割以上が講じていると回答。しかし、今の会社にキャリアの不安を感じているか? という問いに約6割のZ世代は不安に感じていると回答し、双方のギャップの実態が数値で見えた結果となった。
ルールや就業規則上では評価制度を規定していても、実際には然るべき運用がされていないケースもあるはず。仕組み自体を作ることはそう難しいことではないと山元氏、ビジョン実現型人事評価制度にしても難易度が高いのは、企業の中で運用していくリーダーを据えられるかどうか。働く全員が同じゴールを見えていて、全員が自分の役割を知っていて、それを実行することが中小企業はできていないという。
「大企業が生産性を上げている中で、残念ながら中小企業は40年も横ばいです。日本の将来を考えると危機的状況です。会社と個々のベクトルを合わせるだけでも大きな力になります。経営計画と人事評価制度、この連動をしながら組織をマネジメントすることがZ世代を引き付け、かつZ世代社員の成長も加速をしながら生産性を上げることができます」
日本の中小企業の社長に変わってほしい、最後にそんな強いメッセージでラウンドテーブルは終了した。