沖縄県知事・翁長雄志氏(67)が8月8日夜、浦添市の病院で死去した。4日には同県の謝花副知事と面会し、辺野古の埋め立て承認撤回を誓ったばかりだったという。その後、かねてから進行していた膵臓がんが肝臓に転移し、意識が混濁する状態が続いていたようだ。

翁長氏の政治信条への賛否はさておき、その約3年9カ月にわたる知事在任期間の一貫した反米・反国政の取り組みは真摯たるもの。15年には国連人権理事会で演説、今年3月には新基地建設反対を訴え訪米するなど、知事としての行動力は国内外に「沖縄問題」を認知させる契機として余りあるものだったと評価したい。

だが、そんな故人の死を、冒涜するかのような「利用」が、SNS、さらに大手メディアにおいてもなされていることが残念でならない。

知事の死が報道されて以降、左派のアカウントに多く散見されたのが「安倍(晋三首相)に殺された」という書き込みである。

「辺野古基地問題、どれ程の心労だったかことか!! 安倍に殺されたようなもんだ!! めちゃくちゃ悔しい!!」

「翁長知事は安倍・菅にいじめ殺されたも同然。安倍一味を必ず打倒しましょう」

「ある意味、翁長知事は、安倍首相に殺された、とも言える。病気は、安倍首相のせいじゃないけど、でも、ほぼそう思える」

一種の比喩的な表現だとしても見るに耐えない。しかし、何でも政権に責任転嫁する「アベガー」現象は、大手メディア『AERA』も大差なかった。

安倍政権が殺したと言わんばかりのタイトルである。

さらに文中には「翁長知事の死去で局面は変わる可能性もある。新基地建設反対を最期まで貫いた翁長知事の「弔い」の感情が県民の間に広がることも予想される」と、来たる知事選が「弔い合戦」になると言いたげである。

また参議院議員・有田芳生氏、評論家の辛淑玉氏も、さっそくブロガーの「翁長知事を死に追いやった日本政府・沖縄防衛局を決して許さない」という記事をリツイートしていることも見逃せない。

翁長知事の死は、参加企業が相次いで離脱するなど瓦解した「オール沖縄」の再結束を材料にされようとしているのか。屍を晒しものにしてまで政治利用するのは見苦しい限りである。翁知事の冥福を祈りたい。