安倍晋三首相が『プライムニュース』(BSフジ)のパーティで「電波オークション」への意欲を見せて、ソーシャルメディアでは波紋が広がってり。そして、その一方でテレビ業界には震撼が走っている。 

安倍首相は3月2日、東京・虎ノ門のホテルオークラで開かれた「プライムニュースの集い」に駆けつけ、「電波、通信の大改革を行いたい」と宣言して会場をどよめかせた。そして「(競争によって)ネットや地上波が競合していく」と来るべきメディアの未来予見し、「(テレビ局は)生き抜いていけるコンテンツを提供することが求められる。あまり狭い日本だけ見ずに世界を目指してほしい」と展望を述べた。

首相動静をみれば、ホテル到着から出発まで滞在時間はわずか7分。それでも、この鶴の一声は、ネット上に拡散され「いよいよ電波オークションが実施に向けて、動き出すのか?」と盛り上がりをみせた。逆に、これまで電波使用の既得権を守ってきたテレビ業界では「アベの(テレビへの)逆襲はじまった」と戦々恐々の嘆息が漏れている。

いまのテレビ放送事業は、認可を受けた一部の事業者しかおこなうことができず、とくに地上波の全国放送は実質的に新規参入が不可能な状態。年間数十億円程度の電波利用料を払うだけで、数千億円規模の利益を上げることができる、いわば「既得権益」なのだ。この異常な寡占状態を容認するかわりに、「政治的中立」が求めるというのが現在の放送法である。もし電波オークションが実施されれば、日本でも数十チャンネルが放送されることになり、放送法がもつ「政治的中立」の前提も根底からくつがえることになる。

安倍首相は、昨年もモリカケ問題をめぐる報道で、テレビ局と何度もぶつかっている。9月25日には『NEWS23』(TBS系)に出演し、解散の「大義」について説明している最中に、突然「2人でモリカケっ」という謎の音声が流れ、案の定、そのあとキャスター2人は安倍首相の発言を遮って、モリカケ問題を蒸し返そうとする事件まであった。こうした一件を眼前に体験したことで、電波オークションの実施にかける並々ならぬ思いがあるのかもしれない。

ともあれ国民はこの先、二択を迫られることになる。一つは、現状の寡占放送を続けながら、偏向報道に真っ当な『政治的中立』を突きつけること。もう一つは、電波オークションを実施し、アメリカをはじめとする諸外国のように、各放送局が主義主張をもった番組をつくることだ。いずれにせよ、現在の民放各局にとって痛い選択になるのは間違いなさそうだ。

Japanese Prime Minister Shinzo Abe speaks during talks with Serbian President Aleksandar Vucic, at the Serbia Palace in Belgrade, Serbia, Monday, Jan. 15, 2018. Abe is visiting Serbia as part of his East European tour. (AP Photo/Darko Vojinovic)