プロインタビュアーの吉田豪が、いまもっとも旬で、もっとも注目する人物に直撃するロングインタビュー企画。今回のゲストは、“JAPANESE R&E(リズム&演歌)”の旗印を掲げるロッバンド「怒髪天」を率いる増子直純さん。

エモーショナルな熱い音楽で支持される怒髪天ですが増子さんの人生も濃厚そのもの。そんな増子さんの人物像を全3回に渡って掘り下げていきます。

怒髪天 増子直純×吉田豪(1)「怒髪天はもともと愚連隊みたいなものだった」|インタビュー

怒髪天 増子直純×吉田豪(2)「俺を嫌だなと思ってるやつが嫌な思いするなら、いくらでも頑張れる」|インタビュー

■ライブ中にも勃発するケンカ

──増子さんにはライブ中に客席のケンカを止めたって伝説もありますよね。

増子 ああ、だいぶ前だけどね。高田馬場かな? サカさん(ドラムの坂詰克彦)が当時働いてたとび職の若いヤツが観に来て、それがお客さんとケンカになって。歌ってるとき目の前でぶん殴り合いし始めたから、しょうがねえなと思って歌いながらジェスチャーで止めて。で、曲がジャーンと終わったあと、「いい加減にしろよ、歌いながら止めるのホントたいへんだからやめろ!」って言って。終わってからちゃんと謝りに来たけど。ホント困るよ!

──両方やるのはたいへんなんですね(笑)。

増子 そう、両方やるのはたいへん。そいつらのために曲を止めるわけにいかないから。いい曲だからね。昔はなんか言ってきたヤツがいると、客席に跳び蹴りしたりしたんだけどさ。

──それは北海道時代に?

増子 いや、東京でもあったね。外人が観に来てて、すごいバラードの曲のときに目の前でペチャクチャしゃべってたの。頭きちゃってマイクをぶん投げて「表出ろ!」っつって。そしたらその友達の日本人が出てきて、「俺が出て行く」って言うの。それが柔道何段だかのヤツで、俺も頭にきてるから「上等だ!」なんつってやったよ。すげえやられちゃったけど。そいつに「だいたいおまえに聴かせる腕がねえんじゃねえか?」って言われて、ぐうの音も出なくなっちゃって、たしかにそうだから。「その点に関してはそうだったかもしれない。わかった、もう一回やるから戻って聴いてくれ」っつって。俺もう血だらけよ、服も破れちゃって。メンバーはもう呆れちゃって、お客さんもほとんど帰っちゃってんの。で、鼻血が出たまま、「じゃあ、さっきの曲もう一回いきます」ってやったら、そいつも外人も観てて、終わったあと拍手して「よかったぞ!」っつって握手して(笑)。

──ダハハハハ! さすがだなー。そうやってハッピーエンドにする力がありますよね。

増子 どうかしてるよね。メンバーも「まさかもう一回やるとは思わなかった」って言ってたもん。「今日はもうここで終わりだなと思った」って言ってたから。「戻ってきてすげえボロボロの格好して鼻血を出しながらあの曲を歌うとは思わなかった」って。

──で、握手(笑)。

増子 そう。「いい曲だ!」って言ってた(笑)。でも、ホントそのとおりだなと思って、聴かせる力がなかったなと思って。

──アクシデントを綺麗に着地させる能力が異常ですよ!

増子 ただ周りは呆然だよね。あれはいま考えるとおもしろかったなあ。また外に出たらそいつデケえんだわ。案の定強かった。

──増子さん、その細さでちゃんと強いのが謎なんですよ。

増子 空手7年やってて、そのあと自衛隊いってるからね。でも、ケンカなんていうのは体格じゃないよ。一番ケンカが強いのはヤクザだよ、いままでいろいろ見てきたけど。だって最初に必殺技を出すから、それは絶対に勝てない。最初に目潰しくることある? ビックリするよ! でも、いかに相手の予想を上回る必殺技を最初に出すかっていうのが、先手必勝じゃないけど重要なんだろうね。だから、勝ったこともあるし負けたこともいっぱいあるよ。

──でも、あきらかにそういう経験によって培われた何かを持ってる人だと思いますよ。

増子 そうね。振り返ればよかったなとは思う。嫌なかたちであんまり終わってないからかな。

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