今年4月16日、米国は、中国通信大手ZTEに対して、制裁違反を理由として、7年間の米国内販売禁止と米国企業によるソフトウェアとハードウェアの販売を禁じる命令を出した。これにより、スマートフォン北米市場でシェア4位だったZTEは事実上の事業停止状態に追い込まれることになった。現在、通信業界では次世代規格である5Gの規格決定と基地局などインフラ整備のテストと準備が始まっているが、この処置によりZTEは次世代規格に加われないことがほぼ決定的になった。

中国ZTE、主要な営業活動を中止 米の制裁措置が影響か

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20180510-35118922-cnn-int

基本的に、現在のスマートフォンは米国企業が持つ特許なしにはなりえない。グーグルのアンドロイド、アップルのiOSなしでは成立しないからである。また、通信チップもクアルコムやインテルなどがその中核を占めており、チップ供給なしではスマートフォンを生産することは不可能なのである。

そして、米国は中国の最大手通信機器企業であるファーウェイにもその捜査の手を伸ばしている。ファーウェイは中国人民軍の工兵部隊出身者が創業者であり、中国政府や中国人民軍とかかわりの深い企業だといわれている。実際に、2012年10月、米連邦議会下院の諜報委員会 は、ファーウェイとZTE社の製品について、中国人民解放軍や中国共産党公安部門と癒着し、スパイ行為やサイバー攻撃のためのインフラの構築を行っている疑いが強いとする調査結果を発表し、両社の製品を合衆国政府の調達品から排除し、民間企業でも取引の自粛を求める勧告を出しているわけだ。

今回、この二社が米国の制裁や調査対象になったのは非常に興味深いといえる。実はこれに先立ち、今年3月7日、米国財務省は、シンガポールに本社を置く半導体企業であるブロードコムによるクワルコム買収に懸念を示す声明を出していたのだ。ブロードコム、クワルコムともに通信チップの有力企業であり、ブロードコムはもともと米国企業であるが、華僑資本などによる買収により二大本社体制をとっている企業だったのである。財務省はその理由を安全保障上の理由としている。

安全保障を考えた場合、通信は非常に重要な意味を持つ技術であり、これを他国に奪われることは非常に危険といってよい。だからこそ、今回の処分となったといえる。また、これは米国の反撃の始まりに過ぎない。米国は中国への経済制裁をかけるにあたり、安全保障と知的財産権を大きな要素として挙げている。現在、米国が覇権国家の地位を維持できるのは、豊富な知的財産権とそれを前提にしたルール作りをできるからである。当然、これを害するものが出てくれば、相手が対抗できる存在になる前に潰すのが王道であり、今ならそれが可能であるからだともいえるからである。

中国は他国企業の技術移転と技術を持つ多数の企業の買収により、一気に技術レベルを上げている。そして、このままでは世界の技術的主導権を握られる恐れすらあるわけだ。しかし、中国は物を生産できても、その規格作りやチップなどキーパーツや生産機械の製造までは出来ない。つまり、米国にとって、中国を潰すには今しかないのである。