米国トランプ大統領は、3月8日、アルミと鉄鋼に関税をかける大統領令に署名。そして、3月22日、中国に対し輸入産品に関して関税をかけるスーパー301条の発動を発表、23日にはアルミと鉄鋼への関税が開始された。これによって、「米中貿易戦争」の火ぶたが落とされたわけである。そんな中、やはり戦争の本格開戦ともいうべきニュースが飛び込んで来た。

米司法省、ファーウェイを捜査 イラン制裁に違反か=WSJ
https://jp.reuters.com/article/usa-china-huawei-idJPKBN1HW278

米国司法省が中国通信機メーカー大手ファーウェイに対して、イラン制裁違反の調査を開始したことが報じられた。ファーウェイは出荷台数シェア共に世界第三位の通信機メーカーであり、中国の通信の核となるメーカーである。

米国は、4月17日にも中国通信機メーカー大手ZTEに対して、7年間の米国内販売禁止と米国企業のZTEへの技術移転の禁止を命じている。これにより、ZTEは米国で販売できないだけでなく、クアルコムやインテルなどからの通信チップの購入もできなくなり、次世代携帯規格であるG5の規格決定と基地局などへの参入が絶望視されているわけである。

ファーウェイに対しても、ZTE同様の制裁処置が行われた場合、中国の携帯電話通信は壊滅的なダメージを受けることになる。日本ではソフトバンクがZTEやファーウェイと共同で次世代基地局実験を行っているが、これも暗礁に乗り上げる可能性が出てきたといえる。そして、これは米国と中国の本格的な貿易戦争の始まりを告げるものともいえよう。

■米中対立の余波が日本企業に?政府はすみやかに対処すべし

中国は1992年の改革開放路線への転換以降、自由主義資本主義陣営である西側の技術と資本を積極的に取り入れ、国家を発展させてきた。それを西側諸国がそれを行う前提には、『中国が最終的には完全な自由主義体制に転換する』というものがあった。日米をはじめとした自由主義陣営の国はそれを信じて、技術移転を行い、資本を投下してきたのだった。しかし、現在の習近平体制はその真逆の戦略をとっている。4月11日の全国人民代表大会(全人代)では、「習近平氏の新時代の中国の特色ある社会主義」を憲法に盛り込み、社会主義体制への回帰を謳ったのだ。これは価値観の対立であり、単なる貿易赤字の問題ではない。

中国は、偉大なる中華帝国の復権を謳い、軍事面でも経済面でも米国を追い越そうと必死である。しかし、それは覇権国家である米国の地位を脅かすものであり、米国としてはそれを到底見過ごすことはできないのである。また、中国はこの目標を達成するために、国営企業や国営ファンドを利用した買収劇を繰り広げ、先進国の持つ先端技術を奪ってきた。しかし、これに対しても米国政府が買収を禁止するなど厳しい対応に転じており、これも難しくなってきているのだ。

通信というのは軍事技術の核であり、現代社会を構築するインフラの要である。今回の通信機メーカーに対する処置は、米国がこれ以上中国に先端技術を渡さないと宣言したのに等しく、米中の対立はより激化してゆくのであろう。そして、この問題は日本企業も例外ではない。米国の対応が厳しくなったことで、日本のメーカーが買収のターゲットになるだろう。日本政府は早期に明確な対応策を打ち出すべきである。