騎士団の島として知られるマルタ島。
オスマン帝国によってエルサレムやロドス島を追われた聖ヨハネ騎士団は、1530年、神聖ローマ皇帝カール5世から忘れ去られたマルタ島をもらい受けます。
本拠地をマルタに移した騎士団には、それまでの功績と、団員の多くが有力貴族の出身であったことから、ヨーロッパ各地から多額の寄付が集まりました。
そんな富を背景に、騎士団によって建てられた壮麗なる建物のひとつが、マルタの首都ヴァレッタの中心に建つ聖ヨハネ大聖堂です。
聖ヨハネ大聖堂は、騎士団がその名を冠した洗礼者聖ヨハネを称えるために建てられた聖堂で、1578年にマルタ人建築家ジェロラモ・カッサールの手によって完成しました。
この大聖堂、外観は要塞を思わせる質実剛健な造りですが、内部は度肝を抜かれるほどに豪華。
壮麗な絵画や黄金色の装飾で覆い尽くされた内部に足を踏み入れると、きっと口があんぐりと開いてしまうことでしょう。
身廊は、長さ57メートル、幅15メートル、高さ19メートル。完成から100年は簡素な内装をしていましたが、17世紀にバロックの豪華な内装へと改装されました。
その天井には、聖ヨハネが生まれてから捕らえられて斬首されるまでの、聖ヨハネの生涯を表す18場面や、騎士団長の姿、甲冑などが描かれています。
1660年、当時の団長が大聖堂の天井を聖ヨハネの生涯を表す絵で飾ることを決め、イタリアの芸術家に依頼。6年かけて天井画が完成しました。
一見フレスコ画のようですが、実際には石灰岩に油絵具で直接描いたものです。
床を覆い尽くす400あまりの大理石の墓標も印象的。これは、17~19世紀にかけて特に大きな功績を上げた団員を追悼するためのもので、勝利や名声、死などを表すモチーフで飾られています。
中央祭壇は、色大理石とラピスラズリ、金銀で装飾された実に豪華なもの。
聖ヨハネがキリストを洗礼している場面を表現した彫刻は、1700年にローマからマルタへと送られました。
即廊には、フランス、プロヴァンス、イタリア、オーヴェルニュ、アラゴン、カスティーリャ=レオン、ドイツ、イングランドという、騎士団を構成する8つのグループの礼拝堂があり、それぞれが豪華絢爛に飾り立てられています。
各礼拝堂がそれぞれのグループの威信をかけたかのような華麗なる仕上がりで、天井から壁にいたるまで、各グループを象徴する精巧な彫刻で覆われた空間は「圧巻」のひとこと。
こうした内装に加えて聖ヨハネ大聖堂で見逃せないのが、併設の美術館にあるカラヴァッジョの傑作「聖ヨハネの斬首」。美術館といっても、大聖堂内の一室にあります。
「聖ヨハネの斬首」は、ローマで殺人を犯したカラヴァッジョが、南イタリアを放浪した後、友人の騎士を頼りにマルタに逗留したときに描いた作品。カラヴァッジョが描いた最大の絵で、彼が唯一サインを残した作品でもあります。
大胆な構図と、聖ヨハネにスポットライトが当たっているかのような光と影のコントラストが実にドラマティック。不思議な静けさとダイナミズムが共存した、観る者を引き込む大作です。
聖ヨハネ騎士団の栄光を「これでもか」と見せつけている聖ヨハネ大聖堂。ここに来れば、勇敢な騎士たちのたましいが今も生き続けているように感じられることでしょう。
Post: GoTrip! http://gotrip.jp/ 旅に行きたくなるメディア