ウクライナ東部のドネツク州セリドーブの病院に11月20日、2発のミサイルが直撃した。当時病院にいた国境なき医師団(MSF)のスタッフ5人にけがはなかったが、保健省の職員2人を含む8人が負傷した。その後、ミサイルによって崩壊した病院のがれきから遺体が見つかり、3人の死亡が報告された。1週間前の11月13日には、MSFが活動する南部ヘルソン州の病院も攻撃を受け、保健省の職員1人が死亡した。MSFは1週間で2度も起きた病院への攻撃を非難し、医療施設の保護を改めて呼びかけている。
■ミサイルが直撃
当時現場にいたMSFの救急車運転手、アルテム・トレチャコフは、「午後11時半ごろ、爆発音が最初は遠くから聞こえ始め、次第に近づいてきたと思ったら、突然ミサイルが私やほかのMSFスタッフがいる部屋を直撃しました。部屋の角に当たったので、私たちは助かりました」と振り返る。
MSFのチームは攻撃の直後に、病院内で負傷者の応急処置を開始。さらなる支援のため、集中治療救急車と緊急対応チームもセリドーブの病院に向かった。
MSFの医師、エブゲニア・ミティアエバは、「病院敷地内の照明はすべて消えていました。私たちは廊下を進み援助が必要な人がいないか尋ね、懐中電灯や携帯電話のライトを使い、ひとまず包帯を巻いて応急処置をしました。80歳の男性患者が、爆発で割れた窓ガラスで複数の傷を負い重体でした。初期治療の後、さらに治療を続けるために救急車で別の病院に搬送しました」と、当時の様子を説明する。
■病院も救急車も被害に
セリドーブでは、病院に加え、2台の救急車も被害を受けた。救急車は、2022年5月以来1万600人以上の患者搬送を担い、その大半は紛争の影響による外傷患者だった。トレチャコフによると、爆風でガラスは割れたものの車両は機能しており、再稼働できる可能性はある。
一方、11月13日、MSFが活動するヘルソン州の病院が砲撃の標的となり、窓ガラス150枚が破壊され、救急部門が大きな被害を受けた。保健省の職員1人が死亡し、3人が負傷した。
■医療施設を「命を救う場所」に
MSFのウクライナ現地活動責任者、ビンチェンツォ・ポルピーリアは、「MSFは悲劇的な被害を引き起こした、病院に対する攻撃を断固非難します。このような攻撃は、医療スタッフの命を危険にさらし、患者に医療を提供する私たちの能力を危険にさらしています。医療施設は命を奪う場所ではなく、命を救う場所であるべきです」
今回攻撃を受けた病院での活動は、治安の悪化と建物への甚大な被害により、一時的に中断せざるを得なくなった。しかし、救急車での搬送による援助継続を約束し、ドネツク州とヘルソン州の他の病院でも、救急外来や外科治療に関わる活動を継続するとともに、医療サービスへのアクセスが制限されている前線に近い地域での移動診療を実施している。