2010年代に入ってから海外メディアでは「industry4.0」という言葉が頻繁に使われるようになり、世界の製造や流通の現場は大きな変化の波にさらされている。日本においても「第四次産業革命」という言葉とともに、「いかにして技術革新に適応していくか」という点は大きなトピックになっている。
かつて「モノづくり大国」としての盤石な地位を築いていた日本が、果たして現在の変化に適応できているか……と言われたら、疑問符がつく。内閣府が発表している資料(※1)によれば、IoT(モノのインターネット)の導入やFintechの投資額の点においては、アメリカやドイツを始めとした欧米諸国に遅れを取っている状況だ。このような変化の最中で「どのような事業戦略をとったらいいのか」というのは多くの日本企業にとって非常に悩ましい問題だろう。
「グローバルIoT」で成功するヒントとは?
10月中旬、スウェーデンに本社を置く「Telenor Connecxion(テレノールコネクション)」が事業戦略セミナーを開催した。日本企業がいかにして「グローバルIoT」で成功するかというテーマを設定し、CEOのマッツ・ルンドクイスト氏らが登壇した。
同社はIoT市場において、北欧圏では1位、ヨーロッパではトップ3に入るという大きなシェアを誇り、日本では大手の重機メーカーや自動車メーカーなどのビジネスに携わっている。
そもそも、IoTによって、ビジネスにどのような変化がもたされるのだろうか。それには、いくつかの実現段階がある。まず、データ管理によってコスト削減や効率アップを実現する段階。続いて収集したデータを用いて様々な新サービスを生み出す段階。そして新たなビジネスモデルの創造へと続く。
一つ具体的な例がある。ある大手重機メーカーでは、Telenor Connecxion社のサポートの下、他社に先駆けて重機のIoT化に取り組んでおり、既に新しいビジネスモデルを確立している。従来は「ショベルカーを製造して販売する」というビジネスが基本であったが、「保有車両管理システム」を導入したことで、メーカー側にも顧客にメリットがもたらされたという。
例えば、ショベルカーの予防保全のためのデータ収集によってメンテナンスのコストが大幅に削減された。さらに、データを通じて常に重機の稼働状況を把握することで、効率を可視化できるようになったほか、「いつどの部品を現地に届けたらいいか」という管理もしやすくなっているという。のみならず、実際に運んだ土の量がデータ化されることで、現場での見積もり方法にも変化があったそうだ。これはほんの一例だが、「製品を売る」というビジネスが「製品のサービス化」に変化している良い例ではないだろうか。
同社のCTOであるマーティン・ウィトロック氏は、IoTで成功するための秘訣のひとつは「小さく初めて大きく育てる」こと。海外企業から見た日本企業は、品質に重きを置いているというが、品質維持に多大なエネルギーを注ぐ日本企業にとって、「IoTソリューション」は徐々に大きなメリットをもたらす可能性がある。
また、同社のCSOのセス・ライディン氏は、今後、アジアの市場において電力・ガス・水道事業なども急激な成長が見込まれると予測する。
冒頭でCEOのマッツ氏は「つなげることができるモノは、やがてつながっていくだろう」という展望を語っていたが、「IoTを通じて収集したデータによってどのような価値を生み出していくか」という点は、今後ビジネス戦略の構築と深く関わっていくことになりそうだ。
【参考】
日本経済2016-2017(第2章 新たな産業変化への対応)- 内閣府