財務省が激しく揺れている。森友学園をめぐる文書改ざん問題、そして財務省の事務方のトップである福田淳一事務次官のセクハラ疑惑の連発である。前者は公文書管理、情報公開など日本の行政の信頼性を直撃した。後者はまだ事実関係が明白ではないが、福田事務次官の辞任に至った。
財務省がこれだけのスキャンダルに見舞われたのは、風俗店などを利用した大蔵省官僚や日銀職員に対する金融機関の過剰接待をめぐる1990年代終わりのいわゆる「ノーパンしゃぶしゃぶ事件」以来である。この事件をきっかけにして、大蔵省は金融特権ともいえたいくつかの機能を分割ないし剥奪された。今日の金融庁やまた(当時の政府・大蔵省から)独立性の強い日本銀行の誕生はこのスキャンダルが契機だった。
ただし金融庁も日本銀行も現在では財務省の植民地に再び転落している。例えば、日本銀行の政策を決定する委員の人選に、財務省は大きく関与しているようだ。報道レベルなので真実はわからないが、本田悦朗スイス大使の日銀総裁(ないし副総裁)の就任に、財務省が強硬に抵抗しその人事が流れたという。せっかく日本銀行を大蔵省の影響から離したのに、10数年後の現在では、財務省は今でも日本銀行を外からコントロールしようとしている。財務省側の目線でいえば、10数年かけて、ノーパンしゃぶしゃぶ事件での失地をようやく回復したということだろう。国民の利益など度外視の本当に懲りない連中である。
この懲りない体質と、また歪んだエリート意識が、今回の理財局を中心とした文書改ざん問題、そして(まだ事実関係がよく見えていないが)「セクハラ疑惑」での傲慢不遜ともいえる対応(被害者が財務省の窓口に名乗りでるように公に告知するなど)に表れているのかもしれない。もっとも「セクハラ疑惑」のほうは、その「証拠」といわれるテープの加工が激しいなど、いくつも素朴な疑問があるものであり、(次官辞任後も)慎重な対応が今後も求められる。
■財務省の政権内影響力が低下で増税阻止につながるか
ところで文書改ざん問題などを契機にして財務省の改革の必要性が言われている。一部では話を大きくして省庁改革という声もあるが、話が大きくなると財務省の責任があやふやになるだけである。土居丈朗慶應大学教授は、時事通信の記事中コメントで、「今回の体たらくで、財務省の主張が政権内でまともに扱われない可能性が出てきた」としている。
土居氏は財政再建のために消費税増税を積極的に進めようとしているので危機感があるのだろう。消費増税の旗振りを積極的にしているのは、財務省がその中心であることは誰でもわかることだろう。消費税増税に関しては、土居氏の危機感を現実のものにすることが、私にはいまの日本経済にとっていいことだと思っている。
もちろん問題はある。ひとつは、消費増税停止・廃止などが、かならずしも今回の文書改ざん問題や「セクハラ疑惑」と結びついていないからだ。簡単にいえば問題が違う。また力技で、財務省の政治力を抑制しながら、一気に消費税停止・廃止をするだけの問題意識をもった政治勢力も必要になってくる。いまの安倍首相も現時点では消費増税をする方針に変更はないようだ。ただし安倍首相には過去二回の消費税先送りの「実績」がある。それ以外の自民党の総裁レールの「候補」たちは軒並み増税派である。
いずれにせよ、現段階で、消費税増税の停止・廃止は、世論のごく一部の願望にしかすぎない。財務省の超権力を抑制するには、同省の最大の政策である財政再建という美名の増税路線をたたくことが最も効果的だと思っている。その意味でももっと世論がこの機会に、財務省の超権力を批判的に見つめ、財務省の増税路線と厳しく面することを望みたい。
【追記】脱稿後、セクハラ被害をうけた女性記者がテレビ朝日の職員だという、テレビ朝日の記者会見が行われた。
「録音、自らを守るため」次官セクハラ問題、テレ朝会見(朝日新聞)
https://www.asahi.com/articles/ASL4M014NL4LUTIL06W.html?iref=comtop_8_01
テレビ朝日の記者会見を見たかぎりでは、セクハラの疑いが極めて高い事例のように思われる。と同時に、この事案が取材受けるという業務の中で行われたことを、財務省側は深刻に受け取る必要がある。さらに、テレビ朝日側は女性記者からの告発を無視していた実態も明らかになっている。日本の取材現場が、官僚の顔色を窺って成立している側面がこの問題の背景にあるのだろう。また「官庁の中の官庁」といわれる財務省のパワハラ的風土、ブラック企業的風土は以前からも指摘されていた。
日本を代表するエリートが集るという「美名」や、またハードな職場環境を誇る体質なども人を人として扱わない問題の隠ぺいに貢献してきたのかもしれない。その延長には、セクハラ、パワハラだけではなく、本論で書いたように日本の経済、日本国民の生活を「財政再建」という「美名」で抑圧し、押し殺す、エリートたちの歪んだ意識があるともいえないだろうか。