こんにちは、中国人の漫画家の孫向文です。
私は日本に住む前に、短期出張で日本に来てはテレビ番組を興味津々で観ました。当時の感想は「さすが民主主義国家だ。首相を平気に批判できるなんて、言論の自由が保障されている」といったものでした。
しかし、実際に日本に住んでみると、この感想が覆されてしまったのです。最初の違和感は中国に関しての報道でした。中国で生まれ育った本場の中国人が見ると、偏向報道は一目瞭然です。言論の自由においては、逆に「虚偽の報道」も許されるのでしょうか? 否、虚偽の報道は放送の倫理の問題だと考えています。
8月9日、池上彰氏(68)は『池上彰が教えたい!実は…のハナシ。』という番組の中で、習近平国家主席の対日戦略を驚きの解説しました。
そのコーナーは「絶対的な権力が日中関係とよくする」と題されていました。池上氏は「過去の国家主席の中には、日本との関係を良くすることが中国の経済発展にも必要と考えているんだけど、日本と仲良くし過ぎると批判されて失脚した人がいるんです」と、本来中国は友好的であることを強調。そして「ところが、習近平さんは絶対的な権力を持ったから、もう安心して日中関係を改善していこうと言えるわけです」と語ったのでした。
番組に出演していたゲストは「おお、なるほど」と頷き、納得していました。
次に、習近平主席が安倍首相と二回の面会を実例として解説。「最初にあった時はソッポ向いてたり、むすっとしてたりする。しかし、最近は会うたびに笑顔になってきた。非常に逆説的なんですが、中国のトップが絶対的な権力を持ったことで、日中関係は改善に向かう」と説明したのでした。
この「トンデモ理論」を私は即座に批判しました。実際、Twitterに書き込みをしたら、大炎上し、現在において3100件以上のリツイートを得ています。
■習近平が設置してきた反日記念日の数々、歴史上最もアンチジャパニズムな国家主席
14年に国家主席が就任して以来、習近平は歴史上もっとも反日的な主席として、中国人には認識されています。わかりやすい例を挙げますと、盧溝橋事件、南京大虐殺など、年にいくつもの”対日本”を意識した記念日を制定して、国民の祝日にしました。
中華人民共和国国防部「毎年12月13日に南京大虐殺公式記念日」
http://www.mod.gov.cn/reports/2014012/gongjiri/node_46661.htm
また、9月3日を「抗日戦争勝利記念日」、12月13日を南京事件の「国家哀悼日」つまり習近平政権以来、中国では必ず毎年2~3回の反日イベントを全国規模で開催されています。
当時、中国全土の反日中国人は習近平主席を絶賛して、一時的に反日ブームが再燃し、在中日本人が身の安全のため、緊急帰国する事態にもなりました。誇張された南京大虐殺をここまで政治利用する習近平は、間違いなく「親日的」ではありません。
※南京大虐殺についての私の見解は、『日本人に帰化したい!!』(青林堂、2018年)にて著述しているので、ここでは割愛します。
さらに、中国史上最大規模の軍事パレートでは、仮想敵国の日本にロックオンしている最新の「東風」シリーズの核ミサイルを初披露しました。
抗日戦争·反ファシズム戦争勝利70周年閲兵式に登場した兵器
http://japanese.china.org.cn/politics/node_7229801.htm
最近では幼稚園で反日ゲームをやったり、尖閣諸島奪還するようなゲームもありました。私の中国の友人は、甥っ子などが幼稚園から帰宅すると「日本人をみんな殺せ!」と叫ぶ光景もみられる、と驚いていました。
習近平主席の反日政策はキリがないので、このあたりで省略しますが、中国人の私から見ても彼には「親日」のイメージが皆無です。
■笑顔の裏側、安倍首相への対応に中国内政と経済状況が反映されている
追記すると、安倍首相と面会する習近平主席の表情の「証拠」も嘘です。習近平主席は就任以来、人望が足りずに、「攘夷」というポピュリズム政策で、国内の政権を固める一方、初めてG20で安倍首相と面会する時に自分が設計した「反日キャラクター」を実行し、わざと安倍首相に難色をしました。実はその「難色」写真を中国に報道した日に、SNS上の反日支持者の間では喝采が起こっています。
しかしながら、2017年12月に日中首脳会談で習近平主席は初めて安倍首相に笑顔を示しました。この背景には2つの原因があります。まずは一帯一路の進行に日本をAIIBと一帯一路のメンバーとして勧誘することです。
二つ目の理由は、この時にすでに米中貿易戦争が始まっており、中国が日本と仲良くしようとして、アメリカを牽制することでした。当時、実際に中国は自動車関税を引き下げて日本に引き寄せ、アメリカを牽制する動きをしました。
つい最近、米中貿易戦争で中国の経済は重大なダメージを受けました。これは自身の政権の崩壊に繋がりかねない、と習近平主席は、日本に積極的に日中関係改善をアピールしました。目的はアメリカ牽制です。
つまり、池上氏の「習近平主席は政権を固める目的は日中友好のため」の発言は戯言に過ぎず、現実は「習近平は日本を仮想敵のイメージを強化して、反日路線で自分の政権を固める」といった、対極の状態にあるように思えるのです。
それ以外にも、池上彰氏はテレビで「A級戦犯合祀が明らかになって以来、昭和天皇は一度も靖国神社を参拝されないまま亡くなりました」と言いましたが、実際は1952年に、昭和天皇が靖国神社参拝をされた写真があります。また、「東日本大震災時にいち早く駆けつけたのは韓国でした」という発言も虚偽であり、実際に一番早いのは台湾です。
■事実誤認か、意識的な確信犯か、私が「池上彰に教えたい」中国の真実
池上氏はこれらの事実を知らないのか、それとも知っていながら蓋をしてるのか。これでは、「池上彰が教えたい」ではなく、私が「池上彰に教えたい」ところです。
ではなぜ、米中貿易戦争で中国経済と習近平政権が危機にあるこのタイミングで、「習近平は実は親日」とゴールデンタイムのテレビ番組でトンデモ理論が展開されたのか。中国政府は必死に日本にすり寄って日本の投資家を誘致して、中国の外貨獲得を企んでいる。私は「池上彰氏が、なにか習近平の反日像を払拭する使命を帯びていたのではないか」と”邪推”せずにいられません。
「わかりやすいニュース」という謳い文句でTVに出演したり、書店においても著書が平積みで並べられるほどの人気を誇る池上彰氏ですが、盲信する前に正しい情報であるかどうかをご自身で確かめることをお勧めします。今後も放送の倫理を保つという観点からも、日本国民をミスリードする出演者を指摘していきたいと思います。