中国の格差地帯を歩く…共産党に嫌われた街、中国南部・桂林市のリアル

最近では中国からの観光客がよく話題になる。日本に来て薬や食べ物を“爆買い”して帰る人達がニュースに取り上げられることが多い。ニュースだけ見ていると、中国全土から日本に訪れているようだが、実はそうではない。かなり限定された中国人しか日本には来ることができない……と中国のガイドに聞いた。

僕は2017年の夏に中国南部に旅行に行った。書籍の印税で予想外のボーナス収入があったため、前から行きたかった「犬肉祭り」で話題になっていた玉林（ユーリン）に足を運ぼうと思ったのだ。ただ、玉林は日本人はほとんど行かない場所だ。当然直行便はない。

上海経由でまずは桂林に行く。そこで、観光ガイドと合流して玉林まで高速鉄道で連れてってもらうことになった。

ガイドは背の高い男だった。年の頃は40手前で、少し渡辺謙に似た男前だった。

「私は桂林出身です。北京の大学で日本語勉強しましたね。10年間、北京で日本語のガイドや通訳をして暮らしました」

彼は一人っ子であり、両親が老いてきたため家族とともに桂林に戻ってきたという。なかなかの孝行息子である。

「私、でも日本に行ったことないんです。中国で日本に行ける人、実はとても少ないんですよ」

と彼は言う。

彼いわく、北京、上海、広州のおカネ持ちの人しかビザがおりないという。桂林の人が日本に来ようと思ったら、多額の保証金を出さなければならないそうだ。

「国は日本に行ってそのまま中国に帰って来ない、をおそれてる。帰って来なかったら保証金は返さないね。多くの中国人にとって、世界の中でも日本は一番行きづらい国ね」

と彼は続けた。今回の旅行で行く、桂林、玉林の人はほとんど日本に来ることはないそうだ。

「中国人が日本に行ってたくさん買い物するの、中国国内でも報道されてる。中国国内でも買えるけど、ニセモノ多くて安心できない。だから日本で買う人多いね」

薬のニセモノも多く出回っているそうだ。命にかかわることなので、多少高くついたとしても日本で買う人が多いという。

昔は電化製品を買う人が多かったが、中国でも日本製の機械が買いやすくなったため減少した。ただし同じ日本製の電化製品でも、中国で買うより日本で買ったほうが性能が良いと言う人もいて、あえて日本で買う人もいるらしい。

「中国で買える日本製の機械はタイ、マレーシアの工場で作った物が多い。質の高い中国製は中国では手に入りづらいね」

中国で作ってるのにね、とガイドは笑った。本当のところはどうなのかは分からないが、皮肉な話ではある。

桂林市は中国でも有数の観光地だ。デパートなどきらびやかな建物が並んでいる。

散策していると、急に後ろからクラクションを鳴らされた。驚いて振り返ると、バイクが真後ろにいた。慌てて飛び退く。バイクはとてもたくさん走っているのだが、エンジン音がしない。ほとんどが電動バイクなのだ。スーッとほとんど音もなく走る。近未来的だが、乗り方は昭和っぽい。

誰もヘルメットはかぶっていないし、3〜4人乗りは当たり前だ。

「バイク乗るのに免許いらないね。あんまり小さい子供が乗ってると怒られるけど、規則はないよ」

そして信号の数もとても少ない。3車線道路×3車線道路の交差点でも信号がない場合があり、みんな適当に走っている。すぐに渋滞になるし、当然ちょくちょく接触事故はおこっていてケガしているおばさんやどなり合っているオッサンがいた。

交差点に信号がないのだから、歩行者用の横断歩道なんてほとんどない。道路を走って渡ろうとしたら、ガイドに止められた。

「走るダメ、歩いて渡らないと危ない。ゆっくり1車線、1車線渡っていくよ」

渡りながら「昔こんなゲームウォッチがあったなあ」と思い出した。

たかが道路を渡るのにすごくドキドキした。

僕は、観光地よりもスラム街や下町が好きなので裏通りに入ってウロウロと歩き回った。裏通りに入ると、建物は急に古くなる。

「ここらへんはソビエト連邦の建物をマネて作った団地ですね。ずいぶん古いです。当時はソ連と中国仲良かった。今はあまりよくないけど」

ガイド説明する。彼はなぜ僕がこの古い建物を嬉々として写真を撮っているのか分からないようだった。

「すごい味があって良い建物です」

とほめると

「……そうですか？」

と不思議そうな顔で答えた。

古い路地にはあまり電信柱がなく、建物に直接腕金を取り付け電線を通すシステムだった。なかなか乱暴である。

中には取り壊されたビルもあったのだが、日本のように工事現場に囲いをしていない。ガレキがむき出しになっていて、とてもかっこよかった。

「中国の南の方の人は荒っぽいね。ケンカ強い。戦争も強い。毛沢東の共産党が来た時、大部分を殺したね。毛沢東にとって最大の危機だった。だから、中国南部は今でも共産党に嫌われている」

とガイドは言う。

桂林は『漓江くだり』などで有名な観光地であり、年間一千万人以上の人が訪れる。ただし、ほとんどのおカネは国が持っていってしまうという。

「共産党に嫌われてるから桂林はいつまでたってもインフラを整備してもらえない、ってみんな言っているよ。地下鉄も通らないし、ビルも古いまんま。私が小さかった頃とほとんど変わってないよ」

と彼は不満そうに語った。

住人にとっては腹の立つことだろうけど、古い建物が好きな僕にとってはとても楽しかった。ふと見ると、黒ずんだビルの間を、ノーヘルの少女がピンクのバイクに2ケツで乗ってかっ飛ばして走り去っていった。

僕は「自由だなあ……」とひとりごちた。