レトロな温泉町として再び脚光を浴びている、静岡県熱海市。
ビーチに温泉、アートと、さまざまな楽しみがある熱海で、絶対に見逃せない観光スポットのひとつが起雲閣です。
熱海の中心地にたたずむ起雲閣は、「熱海の三大別荘」と称された名邸。1919年、海運王として名を馳せた実業家・内田信也が母親の静養のために建てたのがはじまりです。
1925年には、鉄道王と呼ばれた根津嘉一郎の所有に。根津嘉一郎は、隣地を買い上げ、「ローマ風浴室」など2棟を増築しました。
さらに1947年には、石川県出身の実業家・桜井兵五郎が土地と建物を買い取り、旅館「起雲閣」として営業を開始。熱海を代表する宿として、志賀直哉、谷崎潤一郎、太宰治といった文豪たちにも愛されました。
1999年に旅館が廃業になり、起雲閣は競売にかけられることになります。歴史ある建物の保存を望む市民の声が挙がり、2000年から熱海市の所有に。以来、大正時代の貴重な文化財として、多くの訪問者を迎え入れているほか、「上流階級」「HERO」「花子とアン」など、ドラマのロケ地としても活躍してきました。
約3000坪の広大な敷地に造られた起雲閣の建物は、おもに本館、洋館、離れに分けられます。最初に建てられた本館は、日本の伝統的な建築美を伝える本館。
畳廊下の窓には、職人が一枚一枚流し込んで作った「大正ガラス」が残っているなど、今となっては再現困難な日本の建築美が詰まっています。
本館1階の「麒麟」は、鮮やかなブルーの壁面が印象的。
これは桜井兵五郎が買い取った後に塗られたもので、「群青壁」と呼ばれる加賀地方の伝統技法です。このように、起雲閣の建物は、主が変わるたびに豪華なしつらえが付け加えられ、進化を遂げてきました。
もともと内田信也が車いすの母親のために建てたというだけあって、畳の部屋と廊下の段差をなくすなど、当時としては珍しい「バリアフリー設計」にも注目です。
洋館は、1932年に根津嘉一郎によって建てられたもの。最近では、2014年放映のNHK連続テレビ小説「花子とアン」のロケ地になったことで再び注目を集めました。
日本の寺社に見られる建築の特徴や中国的装飾、アールデコが融合した「玉姫」やイギリスのチューダー様式やサンスクリット語の装飾を採り入れた「玉渓」など、東西の様式を融合させたエキゾチックな空間に目を奪われます。
展示室を挟んで、根津嘉一郎は1929年に建てた洋館「金剛」には、甘美な雰囲気漂うローマ風浴室が。
ステンドグラスの窓やテラコッタの湯出口などは建築当時のままで、別世界へとワープしたような非日常感が楽しめます。小説家・舟橋聖一が「孔雀」に登場させたほか、1950年公開の映画「雪夫人絵図」のロケ地にもなりました。
館内を見学した後は、根津嘉一郎によって整えられた1000坪の池泉回遊式庭園へ。茶人でもあった根津嘉一郎自らが指揮を執り、中央にある推定20トンの巨石は、20人の庭師が2カ月近くをかけて運んだといわれています。
実際に庭を歩くこともでき、庭園側から見ると、各建物の新たな表情が発見できることでしょう。
さまざまな様式を採り入れつつも、見事な調和と威厳を保つ起雲閣は、大正ロマンの極み。熱海を訪れたら、しばし海運王や鉄道王の美意識が詰まった空間で、ノスタルジーに浸ってはいかがでしょうか。
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名前 起雲閣
住所 静岡県熱海市昭和町4-2
公式ホームページ http://www.city.atami.lg.jp/kiunkaku/index.html