テーラード技術を取り入れた白衣を中心に、医療用品の企画・開発・販売を行うクラシコ株式会社が3日、「#看護服からはじめよう」プロジェクト発表会を行い、プロジェクトの概要を説明するとともに現場看護師の置かれている現状について有識者とのトークセッションを行った。

「おしゃれ好きな医者の友人が『病院に行くとロッカーには、学校の理科や保健の先生が着ているような白衣しかなく、仕事に対するモチベーションが上がらない』と話していて、そういうところを変えられたらという思いからクラシコが始まった」と話すのは、大和新・クラシコ代表取締役社長。直接ドクターの声を聞きながら商品を開発するという方式でマーケットを切り開いてきたという。1着あたり2万円以上という価格設定も、従来の作業着や消耗品ではなく、ビジネスマンスーツやジャケットと同等ものとしてユニフォームをアップデートしてきた自負があるためだ。

一般の白衣と違うのは、作業にフィットするデザイン・糸から厳選した素材・一流の縫製のすべてにこだわった点だ。また、ドクターの白衣だけではなく、数年前からはナース服も展開し、「医療業界で気持ちよく働ける環境を作っていきたい」と大和社長は話す。クラシコでは2015年、人気ファッションブランド「ロンハーマン」とコラボレーションした白衣を発売し、18年にはルームウェアブランド「ジェラートピケ」とコラボレーションし初のナースウェアも発売。今年は、株式会社エランと患者衣ブランド「lifte」を共同開発するなど、医療従事者からの認知度も上がっている。

新型コロナウイルスの感染拡大にともない、看護師の労働環境の過酷さや離職で人手不足等の問題に注目が集まり、労働環境の見直し・改善が急速に進んでいるなかクラシコでは、現場の実態を調査。すると、賃金や福利厚生の問題と並んで、自由な働き方を縛っている独特なルールや慣習があることが明らかになった。

約4割の看護師が「(それが原因で)労働意欲がそがれた」と回答したルールをクラシコでは「11のふしぎなナース文化」として列挙している。

  1. ●髪色は明るくしてはいけない?
  2. ●靴下・下着は白でなければいけない?
  3. ●看護服は上下とも白でないといけない?
  4. ●髪を結ぶシュシュやヘアゴムは、黒や茶など地味な色でないといけない?
  5. ●女性はまつげエクステをしてはならず、男性はひげを生やしてはいけない?
  6. ●寒い冬でも、半袖のナース服から出る防寒インナーや患者の前でのカーディガンはいけない?
  7. ●通勤時の服装も地味でなければいけない?
  8. ●ナースステーションでは水分補給ができず、飲みものの種類にも制限がある?
  9. ●休憩時間であっても、病院外に出ることはゆるされない?
  10. ●看護師は移動にエレベーターを使用してはいけない?
  11. ●SNSで投稿したり、友達の投稿にいいねしたりしてはいけない?

7割が身だしなみについての「ふしぎなナース文化」について、現場看護師・病院利用者・病院幹部に聞き取り調査すると、立場によって認識にギャップが生じているという。たとえば、病院利用者からは「それほど厳格に縛りつける必要はないのでは?」という声も。そこでクラシコでは、看護服をきっかけに、医療現場の認識の違いやギャップを解消しようと、「#看護服からはじめよう」プロジェクトを始動させたという。「毎日着る看護服は、モチベーションに大きく影響を与えるので、そこから変えていくことで、現場の看護師さんが少しでも笑顔になり、患者さんにも笑顔で対応できる環境を目指したい」(大和社長)。すでに複数の賛同病院でクラシコのユニフォーム導入による実証実験が行われている。

トークセッションでは、妊活・不妊治療福利厚生サポートを提供する株式会社ファミワン代表で看護師の西岡有可氏が登壇。「ふしぎなナース文化」については、「どれも、あるあるでした。『なぜナースだけ?』という不満は、現場で働いていたときもありました。しかし、管理職の師長になると、スタッフを守ってあげたいけれど、患者さんの意見との間で、(身だしなみに)どこまでOKなのか線引きに苦労しました」とコメント。ただ、コロナ禍での人手不足を背景に医療現場は少しずつ変化しているという。

「たとえば、頭髪も清潔さを前提としながら、ある程度個人の自由に任せる部分や、これまで支給されていたカーディガンも、華美にならない範囲で色が自由になっている病院もあります」(西岡氏)。「徐々に出てきているのが、病院として一括支給せずに被服代や洗濯代として支給をして好きなものを選んでくださいというところも」(大和社長)。このような動きを団体や協会レベルで後押ししていくことも大切だという。

大和社長は「プロジェクトで行った調査は、きっかけに過ぎない。病院の管理者と看護師が議論できるようになるといいですし、患者さんの声がわかるアンケートが始まるだけでもいい。(職場環境が)変わっていくことに繋がっていけたら」とプロジェクトの意義を強調した。西岡氏も「白衣や看護服を着ている時間は長くて何年も働いている限り着ているので、モチベーションがあがるものであれば仕事のパフォーマンスも上がる。(本日着用している)クラシコの白衣も着心地がいい」と話した。

「#看護服からはじめよう」の調査をきっかけに現場の対話の機会が増え、少しずつ「ふしぎなナース文化」が解消され、看護師の働き方改革が進むことを目指している。