プロインタビュアーの吉田豪が、いまもっとも旬で、もっとも注目する人物に直撃するロングインタビュー企画。今回のゲストは、低予算ながら大ヒット上映中の映画『カメラを止めるな!』で旋風を巻き起こしている上田慎一郎監督。実は上田監督と“因縁”があった吉田豪が、上田監督の人生を全3回にわたってじっくりと掘り下げます。
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──いまはどう思ってるんですか? そのとき無駄な道を歩んだな、みたいな思いはあるんですか? あれはあれでプラスにはなっているという解釈?
上田 あれはあれでプラスになってるなとは思ってますね、結果論では。ちゃんと映画を作り始めたのは25歳からなんですけど、真っ当に18歳で高校を卒業して映画の専門学校とか行ってやってたら、こういう映画を作ってない気がするので。
──ちゃんとした映画作りのノウハウが叩き込まれて、ちゃんとはしているけどそんなに個性のない映画作りになっていた可能性がある。
上田 映画とはこうあるべきだっていうのを学んでないからよかったんだろうなっていうのはあります。中学校の頃からハンディカムで映像を撮ってたんですけど、映画を観て撮って、感覚と体でずっと映画を撮ってた感じなので。そういうやり方をしてたから撮れた映画だなっていうのはありますね。今回だって最初の37分ワンカットは相当反対されましたから、反対されないとダメなんだと思いますね。
──過去の行動を見てると全部それですよね。そういうの見れば見るほど反対するのが無駄というか、余計にエネルギー与えるだけだから注意するのはやめたほうがいいんだなって思います(笑)。
上田 そうですね(笑)。逆境がホントに好きなんだと思います。
──mixiの最後の書き込みが好きで、「あ、最後にまた暑苦しい事書いていいですか?」「さぁ、上田慎一郎よ。(俺の本名です)情熱の意味を超えていけ。青春の枠を超えていけ。いきどまりを超えていけ。不可能の先で笑ってやれ。真っ赤な翼生やして、不可能の先まで、ぶっ飛んでいけ。苦しみも、悲しみも、喜びも全部ひっくるめて、俺は走っていきます。成長していきます。一生青春!!!!!!!」っていう。
上田 いやぁ……エグいですねえ(苦笑)。だいぶエグいです。でも、そういうのに似たようなことはたぶんいまでも書いてるんで。
──「一生青春!」感はまだあると思うんですよ。
上田 あると思いますし、ちょいちょい出しちゃってますね。痛いっていう感じを俯瞰した視点も入れつつ、いまもそういうことしますけど、そのときは真っ直ぐですからね。その書き込みも、わりと時間をかけて書いてるはずなんですよ。勢いで書いたわけじゃなくて誰かに響かせようと思って書いてはいるから。そこが逆に恥ずかしいですよね。ちゃんと構成して書いてるなっていうのが。
ディズニーシーで泳いで校長室を破壊
──いまから過去のことを掘り起こされて炎上する可能性もある人だと思うんですよね。「昔こいつはこんなことしてたぞ」「ディズニーシーで泳いでるぞあいつ」(※編集部注:https://ameblo.jp/beblue0407/entry-10026766645.html)とか。
上田 そうですよね、あれも残ってたか。
──修学旅行で「ディズニーシーの湖で泳ぐパイオニアになってやる」と言って、服を脱ぎ、友達にマフラーを投げ込んでもらって、それを取るふりをして泳いで、ディズニーの警備隊に「お客様、何してるんですか?」と言われて、「え、いや、何って。……青春」という(笑)。
上田 これは……すごいですね(苦笑)。ときどき自分のことを映画にしたら? って言われるんですけど、もうちょっとオッサンにならないとできないですね、まだ近いです。
──昔話として客観視するための時間が必要で、まだ生々しい。
上田 生々しいし早いですよね。この前、大阪での舞台挨拶でも、阪神が優勝したときに道頓堀にダイブしたって話を何気なくしたんですよ。それでけっこうヤフコメで叩かれてました。
──あれもすごい上田監督らしいと思いましたよ、あの時期に大阪にいたら、それは道頓堀ダイブぐらいやるよなっていう。ディズニーシーに飛び込む人が道頓堀に飛び込まないわけがないんですよ。
上田 それはそうです、必然ですね(笑)。
──高2のときは校長室破壊事件もありましたね。
上田 はい、ラディンが原因で行けなくなったんですよね。
──ビン・ラディンのテロがあったせいで沖縄の修学旅行がなくなって。
上田 そうです。それでみんなで給食のマスクをして校長室の前に行って、「沖縄に行かせろ!」って活動をして。最終的には校長室の窓ガラスを叩き割って取り押さえられたという(笑)。
──基本はそうやって友達も巻き込んでの迷惑行為を繰り返してきた人だと思うんですよ。そのときも、あきれた仲間がひとり去ろうとすると「おまえ、あきらめるんか」と怒ったりとか。琵琶湖のときもそうですけど、仲間の心が折れそうになるとまず怒って。
上田 はい。そこは変わったかもしれないですね。いまは、そんなに無理強いはしてないと思います。
──高1のときに教科書を全部窓から捨てたっていうのはなんだったんですか?
上田 みんながテスト勉強をしてて、なんかそれを見てイライラして授業中に教科書をすべて窓から投げ捨てて飛び出して行ったんですけど(笑)。……なんだったんでしょうね。何かの本を読んだあとだったのか。
──またそれ(笑)。尾崎豊を聴いた直後とか?
上田 すごく胸に突き刺さった本っていうのは、けっこういっぱいあったんですよ。
──パンクに影響を受け始めたぐらいの時期だったんですか?
上田 一時パンクとかロックな生き方というか。名前は忘れちゃったんですけど原宿にアパレルショップを作って時代を築いた人の……ドクロの表紙の文庫本なんですけど。
──森永博志さんの『原宿ゴールドラッシュ』ですかね、クリームソーダを作った山崎眞行さんについての本。
上田 あ、そうです。その本にも影響を受けてクリームソーダに行ってポロシャツを買ったりしてましたね。とにかく影響されやすかった。
──ブログを読んでると突然矢沢永吉にハマってたり、いろんな時期があるんですよね。
上田 お父さんが矢沢の永ちゃんにすごく影響を受けてて、永ちゃんの『情熱大陸』がわざわざ実家から送られてきましたよ。
“北野武詐欺”事件ですべてを失った?
──お父さんの話をもうちょっと掘り下げてみたいんですけど、どんな人なんですか?
上田 そうですね、お父さんもわりと「信じれば叶う、思考は現実化する」みたいな(笑)。
──ナポレオン・ヒル! そういう系の本を読むタイプですか。
上田 読むタイプで、札束柄の枕で寝てたりとか。
──ダハハハハ! かなり痛いタイプじゃないですか(笑)。
上田 「慎一郎、思いはすべて叶うんだ!」っていうタイプでしたね。お母さんはわりと常識人なんですけど、一時、お母さんに勧められたのか七田式右脳開発みたいなのやってましたね。そういう本をお母さんがけっこう持ってて、七田式のトレーニングを一時してたことがあります。ちょうど妻とつき合い始めたとき、僕は勝間和代にハマッてたんですね。妻にその当時のことをよく愚痴られるのは、デートに行こうって妻が言ってくれるんですけど、「30分なら取れる」って言ってたみたいで。
──忙しいわけでもないのに(笑)。
上田 そうそう。そういうこと言われたのがすごくショックだったって言われますね。とにかく生活を合理的に合理的にみたいな感じやったんですよ。
──まだ何もやってない時期なのに。
上田 そうです。自炊するのを時給に換算したらどうのこうのって妻に言ったり。それはまた高橋歩さんとかは別の意識高い系の感じで。
──その時期はTEAM-0の軌保博光さんに近いタイプだったんでしょうね。
上田 ……TEAM-0?
──もともと山崎邦正さんと一緒にやってた芸人さんが途中から意識高い方向に行って、映画を作るって言い出して芸人を辞めたりとか、路上詩人になったりとかしてたから、タイプとしてはそっちだったんだろうなって。そうだ、詳細が書いてないからずっと気になってたんですけど、「詐欺(通称、北野武詐欺)に遭い失意に暮れる」って昔のプロフィールに書いていた、これはどういうことなんですか?
上田 たしかにあんまり話したことないですね。これは高校3年生のときに『タイムトラベル』という、現代の高校生が戦争時代にタイムスリップしちゃう2時間ぐらいの戦争映画を作ったんです。それをDVDにして渋谷のハチ公前で売ったりして。当時、焼肉屋でバイトしてたんですけど、その焼肉屋に日中はパイロットをしてて夜は週2でバイトをしてるっていう人がいたんです。
──あからさまに怪しいですね。
上田 普段はパイロットをしてて15階建てのマンションの15階は全部俺の部屋だっていう人で。その人に『タイムトラベル』のDVDを渡したら、「俺の知り合いのオフィス北野の部長がすごく映画を気に入って、オフィス北野に欲しがってる。これからアメリカでの活動が多くなると思うから、とりあえず英語の勉強をしてくれ」と。
──ダハハハハ! それでTOEICとかやってたんですか!
上田 いま聞いたらなんのことやろと思いますけど、とりあえず英語の勉強をしてくれって言われたんで、僕はバイトを辞めて、ドリッピーという教材を買って。
──『家出のドリッピー』(笑)。
上田 そうです。あるときにそれが全部嘘だっていうことがわかりまして。お金を取られたとかではないんですけど、虚言癖みたいな人で。なんなんでしょうね、いつもバイト終わりにロイヤルホストに連れてってくれて全部奢ってくれるんですよ。
──むしろメリットあったぐらいじゃないですか。
上田 はい。ただ、僕の周りの人も大小ありますけど嘘をつかれてたんですよ。すべて嘘で、僕はすべてを失って。
──オフィス北野に入ってアメリカ進出するはずだったのに。
上田 そうです、実家にも電話して「すごいなあ!」ってなってたんですけど、みんなが「あのオッチャンに騙されてる」ってなって、その焼肉屋はオッチャンの住所を知ってるので家まで行ったんですよ。変な人やってことがわかったし、何するかわからないから包丁を背中に入れて。
──え!
上田 もうひとり騙されたヤツと一緒に行ったら、すっごいボロボロのアパートに住んでて。で、オッチャンが出てきたから「15階建ての、ベランダに風呂がある家に住んでるんじゃないんですか?」って聞いたら、「いまちょっと事情があって一時ここにちょっと住んでる」って言って。
──まだそう言い張って。
上田 で、「そうですか」って言って去ったんですけどね。それがあったんでバイトも辞めたし、区切りやと思ってなぜかわからないですけど丸坊主にしてヒッチハイクで東京に来ました。それがオフィス北野詐欺です。
──本物のオフィス北野とは無関係だった、と。
怪しい会社、ネットワークビジネス……
上田 それで東京に来て、最初にやったバイトが日給1万円の飛び込み営業で、これはいいなと思ったら、光るペンとクーラーボックスと何か3点セットで1100円みたいなのをあらゆる会社とかお店を回って売る仕事やったんですね、完全出来高制の。
──その時期、そういう怪しい業者がよく物売りに来ましたよ、まったく役に立たないグッズばかり持ってきて。
上田 そうそう。それを1ヶ月ぐらいやったんですよ。いま思えば変な空気のところでしたね。最初にミーティングがあるんですけど、ネガティブな言葉を一切言ったらいかんっていうところだったんです。「暑いですね」って言ったら、「ちょっと上田くん、いまなんて言った?」「暑いですねって言いました」「暑いっていうのはポジティブかな、ネガティブかな?」と。
──ダハハハハ! 「暑い」はポジティブでもネガティブでもないですよ!
上田 「言い方を変えてみようか。たとえば『暑い』だったら『今日は気持ちいい気候だな』みたいな言い方があるよね」とか。
──「気温が高くてテンション上がりますね」とか、前向きに(笑)。
上田 「そうですね、なるほど!」って言って(笑)。ノルマを達成したらみんなで円になって、僕がその円を「慎一郎、慎一郎、慎一郎」って言ってタッチして回るとか。
──なんですか、それ(笑)。
上田 そうやって一定の結果を出し続けたら配下みたいなのができて、その配下の売上が自分に入ってくる。それでいつかオーナーになって不労所得を得られる、みたいな。
──ネズミ講みたいなことをやってたっていうのがそれなんですか?
上田 それとはまた別です。それは1ヶ月ぐらいでしんどくて辞めて、次がネットワークビジネスですね。次世代のmixiになり得るコミュニティサイトに投資したら自動的にお金が入ってくるようになるってヤツで。それもmixi経由で「あなたの日記をいつも読んでます、熱い人ですね。いい仕事があるんです、1回会いませんか?」って言ってきて。それがけっこうかわいい子で、「映画監督を目指しているんだったら安定した収入があって、自分でお金を貯めて映画を作るのもありじゃない?」みたいな。
──「東京ではそんなシステムがあるのか! すごい!」と呑気に喜んでたみたいですね(笑)。
上田 そうです(笑)。で、説明会に行ったら、そこに50万円投資したら自動的にお金が入るようになる、と。で、「50万円もないです」って言ったら、「グッドウィルっていうところに登録だけしてもらうとアコムっていうところでお金が借りられるようになるから」って言われて。
──そんな親切かつエゲツないアドバイスまで(笑)。
上田 そうなんですよ。で、その通りやって。ちょっとあくどいなと思うのが、説明会を受けた夜、その女の子に「今日は一緒にいたい」って言われたんですよ。
──うわーっ、エグすぎる!
上田 つまり、説明会が終わったあとに離れたら僕が友達とか親族に電話するじゃないですか。
──そしたら「それ、おかしいよ」って言われますよね。
上田 止められるじゃないですか。それを阻止するためにひと晩を共にするんですよ。それもネット喫茶でバラバラの部屋でしたけどね。
──ひどいなー(笑)。
上田 ドキドキしたんですけど、ホテルかと思ったらネット喫茶で、眠たくなるまでずっとしゃべったあと、それぞれの部屋で寝て、次の日に契約するっていう。
借金を抱えてホームレスに
──うまいやり口ですねえ。
上田 そうなんですよ。それは3ヶ月ぐらいですかね、僕は地元の幼なじみとかも巻き込んでやってたから、いまこの『カメラを止めるな!』の音楽をやってる鈴木(伸宏)くんを誘って。
──その人も被害者!
上田 被害者です。しかも僕、シルバーみたいな位置にいったんです。
──大勢巻き込んだから(笑)。
上田 入ったらわりとできて、シルバーみたいな位置にいって、週2~3回、FTっていう集まりがあるんですね、「コツコツしたサラリーマンになるな!」みたいなこと言われて。
──完全に洗脳ですよ(笑)。
上田 優秀な人はそこでスピーチをするんですよ。僕、スピーチを2~3回してけっこういい位置までいったんですけど。
──最終的には数百万円を失って。
上田 数百万円を失ったっていうのは、その音楽やってる鈴木とかも怪しんでたので、「じゃあ俺が代わりにおまえの分も出す」って言って、消費者金融5社ぐらいから借りて友達の分まで払ってたんですよ。
──うわー!
上田 それで200万ぐらいの借金を抱えましたね。その最中です、代々木公園とかでホームレスをしてたのは。それは1週間ぐらいで、そのあとにネット喫茶とかにずっといたり、マック難民というか、マックチキンだけ買って24時間営業のマックでずっと寝てたりとか、1ヶ月ぐらい家がない時期がありましたね。当時、ホントに痛かったので、一緒に住んでた幼なじみがいるんですけど、僕は玄関の扉とかに「情熱を超えていけ」とか貼ってたんですよ。
──ありがたいというか痛い言葉を(笑)。
上田 出発する前にそれを読んで。ナントカタクミ(山崎拓巳)さんって人いるじゃないですか、『魔法のドリル』とか自己啓発本を書いてる人。その人が物に名前をつけると愛着が湧くって書いてて、目覚まし時計とか蛇口とかにも百均で買ったシールを貼って名前をつけてたんですね。サイトウとかボブとかつけて貼ってたら、一緒に住んでたヤツがワーッてなっちゃって。
──「もう限界だ!」と(笑)。
上田 とかいろいろあって、その幼なじみと僕の家族が「目を覚ませ!」って言って。元旦の日にそういう集まりを作ってくれて、そのネットワークビジネスを辞めましたね。
──いい話ばっかりじゃないですか(笑)。
上田 これまでネットワークビジネスの部分はほとんど書いてこなかったんですよね。それはたぶん組織側に、そういうのを悪く思う人もいるからっていうことで止められたのかもしれないです。その組織にH兄弟っていうのがいて、すごいガタイのデカいお兄ちゃんと小柄な弟が幹部やったんですね。その弟のほうにすごくあこがれを持ってて、「慎一郎、もし『上田慎一郎』て書かれた本があったとしたら、そのページはおまえがめくっていくんだよ」とか、そういうことをけっこう毎日言われて。
──すっかりその気になって。
上田 そう(笑)。「Hさんすごいなあ!」って言ってましたね、一緒にやってたヤツと。ホントにいままでの人生はコメディ映画になるなと思います。
上田慎一郎(うえだしんいちろう)●1984年、滋賀県出身。中学時代に自主映画の制作を始める。2010年に映画製作団体PANPOKOPINAを結成。長編映画『お米とおっぱい。』、短編映画『恋する小説家』、『ハートにコブラツイスト』、『彼女の告白ランキング』、『Last WeddingDress』、『テイク8』、『ナポリタン』を監督。2015年にオムニバス映画『4/猫ーねこぶんのよんー』の1編『猫まんま』で商業デビュー。妻である、ふくだみゆきの監督作『こんぷれっくす×コンプレックス』、『耳かきランデブー』ではプロデューサーを務åめている。2017年製作の『カメラを止めるな!』が口コミによる特大ヒットを飛ばし、日本中で大ブームを巻き起こし続けている。
●映画『カメラを止めるな!』
山奥の廃墟で自主制作の役者とスタッフたちがゾンビ映画を撮っていた。そこへ本物のゾンビが現われるが、狂気にとりつかれた監督はカメラを回し続け……。映画専門学校ENBUゼミナールのワークショップ「シネマプロジェクト」の第7弾として製作された。当初は都内2館のみでの上映だったが、口コミで評判が広がり、全国で拡大公開されている。
監督・脚本・編集:上田慎一郎
出演:濱津隆之、真魚、しゅはまはるみ、長屋和彰、細井学、市原洋、山﨑俊太郎、大沢真一郎、竹原芳子、吉田美紀、合田純奈、浅森咲希奈、秋山ゆずき
製作:ENBUゼミナール
配給:アスミック・エース=ENBUゼミナール
大ヒット公開中!
(C)ENBUゼミナール