ワインの産地として知られるモーゼル川流域は、美しい街並みの宝庫。日本ではまだあまり知られていませんが、ローマ遺跡がのこるトリーアや丘の上に古城がそびえるコッヘムなど、古き良きドイツの姿を今に伝える町が沢山あります。

なかでも今回紹介するベルンカステル・クースは、中世からの木組みの家が数多く残る町。歴史を感じさせるその景色を一目見ようと多くの観光客が訪れ、小さな町はいつも賑わっています。

モーゼル川沿いのほかの町と同様、ワイン生産が盛んなベルンカステル・クース。町の背後にはブドウ畑が広がり、強すぎともいえる日差しを受けてその葉が輝いています。

この町の歴史で興味深いのが、治癒の力があるというワインにまつわる伝説。14世紀に病気に苦しむトリーア大司教が町はずれの城に滞在しこの町のワインを飲んだところ、彼の病気はすっかり治ってしまったのだそうです。

大司教が飲んだワインは現在でも「ベルンカステラー・ドクター」という名で生産されています。飲んだところで病気は治らないと思いますが、なんらかのご利益はありそうですね。

四方を木組みの家で囲まれた町の中心部。筆者はこれまでいくつもの木組みの街並みを目にしてきましたが、ベルンカステル・クースはそのなかでも美しさと雰囲気がトップクラス。周りに現代的な建物が一切見えないので、まさに中世へタイムスリップしたかのような気分が味わえます。

広場を囲む木組みの家は、まるでこちらに迫って来るかのような迫力さえ感じさせるほど。写真左に写っているのは、1608年に建設された市庁舎。ファサード部分には町の紋章のとなりにトリーア大司教の紋章も掲げられ、当時のこの地域一帯での権力構造をわずかながらに伺い知ることができます。

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