温泉ソムリエ発祥の地・妙高の秘湯「燕温泉」をご存知でしょうか。その泉質はトリプル美人湯と呼ばれ、その源泉は昔弘法大師が発見したと言われています。今回訪れたのは、巣ごもり湯治にふさわしい隠れ家「燕ハイランドロッジ」。源泉かけ流しの硫黄冷泉と、温かいお湯の温冷交互浴を、燕温泉で唯一体験できる宿です。1泊2日でも深い癒しと非日常感に没入できる、そんな“いまどき湯治”をたっぷりと堪能してきました。
温泉ソムリエ発祥の地・妙高の秘湯「燕温泉」
新潟県、標高1,150メートルの山深い奥地にある「燕温泉」。妙高高原温泉郷の7つの温泉はすべて美人の湯と言われていますが、その中でも燕温泉は、炭酸水素塩泉・硫酸塩泉・硫黄泉の三大美人泉質すべてが含まれているそうです。
その源泉は、昔弘法大師が発見したとされ、古くからその名を知られています。
日本基礎スキーの草分け的存在、宮澤氏が開業した「燕ハイランドロッジ」
ブナの森に抱かれる「燕ハイランドロッジ」。全日本スキー連盟のデモンストレーターであり、「宮沢兄弟スキースクール」を開設するなど、日本基礎スキーの草分け的存在の宮澤英雄氏により開業されました。
以来60年、スキー、登山、温泉、それぞれの目的で愛され続ける宿です。
実は、日本は世界でもトップクラスの豪雪地帯をいくつも擁します。その積雪量も雪質も、海外スキーヤーにはたまらなく魅力的に映るようです。燕温泉のある妙高もその1つですが、特にこのエリアの深雪は、最近バックカントリースキーヤー(大自然の雪山を自らの足で登ってスキーで滑り降りるアクティビティ)にも人気。
白馬、安比、ニセコなどとはしごスキーをする強者も少なくないそうです。
※スキー場管理区域外の滑走は、自己責任となります。登山計画書の作成・提出はもちろん、経験・体力・技術・知識によりツアーへの参加検討も必須です。
メディアで放映された和室から山小屋風の客室まで
燕ハイランドロッジの客室は、和室から山小屋風まで人数や目的によって選べます。
テレビ番組「いい旅夢気分」で放映されたお部屋。2~4名用の和室で、眺めのいい窓辺にソファがありゆったり寛げそう。
こちらは映画「突入せよ 浅間山荘」の撮影に使用されたお部屋。奥には畳敷きの部屋があって、1~5名で宿泊できます。
今回筆者が宿泊したのは、『上越妙高 秘境と秘湯!スタンダード一泊二食付』プランの「ブナの森~ツインベッドのお部屋~」。2名1室で、大人1名1万1,500円(税込)〜です。 ※入湯税150円
部屋は暖房がしっかりきいていて、全く寒さを感じません。半袖でも大丈夫なくらい。暖かな部屋から雄大な雪景色を眺めながら、備えられていたハーブティーを淹れて、ホッと一息。
窓を開けると、キンと冷えた雪の気配と、どこか懐かしい石油ストーブの匂いを感じます。山の向こうのゲレンデからかすかに音楽が聴こえてきます。それがまた、この場所だけが静かに守られているような、隠れ家感を増してくれます。
さて、心が少しずつ整ってきたところで、浴衣に着替えてお風呂へ参りましょうか。
アメニティは、客室に浴衣、バスタオル、浴用タオル、歯ブラシがあります。 大浴場には、リンスインシャンプー、ボディシャンプー、シェービングフォーム、綿棒など。女湯の洗面所には化粧水もありました。ドライヤーはフロントで借りる仕組みです。
芯まで温まり体が軽くなるような温冷交互浴
内湯はろ過して沸かした透明な温泉でした。そのまま沸かすと成分が濃過ぎて詰まってしまうそう。
源泉かけ流しの硫黄冷泉と、温かいお湯の温冷交互浴がウリだという燕ハイランドロッジ。内湯が温かい温泉で、半露天の外湯が硫黄冷泉になります。
温冷交互浴の方法
- 内湯に約3分浸かる
- 硫黄冷泉に数秒、無理なら手足に30秒かける
- これを1セットとして3セット繰り返す
※体調の悪い方、心臓疾患や急激な温度差による立ちくらみ、他諸症状の経験のある方は、通常の入浴をおすすめします。
この日の内風呂は約43度。肌にピリピリと感じる熱さで、猫肌(?)気味の筆者は、かけ湯で慣らしても肩まで浸かるのに5分以上かかってしまいました。砂時計とにらめっこしながら、長い3分を待ちます。
外湯の硫黄冷泉は25度。25度というとぬるめの湯と思われる方もいるかもしれませんが、真冬の25度は極冷泉です。それでも肩まで5秒ほど浸かり、無事1セット終了。源泉かけ流しの冷泉は薄い乳白色でした。
2セット目の温浴は抵抗なくスッと肩まで浸かれました。さっきはピリピリ、じんじん感じていたお湯が、体のまわりをたゆたう風のようです。1セット目の温冷浴が依り代となって、より体の奥深くまで温泉が浸透していくような感覚。それでも2分を過ぎたあたりからやはりピリピリし始め、仕上げの冷泉を心地よく(それでも10秒くらい)終了。
3セット目。なぜか2セット目より熱く感じ、肩まで浸かるのに苦労しました。体温によって冷やされた湯によるぬるい膜を壊さぬよう、じっとじっと3分耐え、今回は硫黄冷泉に今までで最長の15秒浸かります。うなじまでしっかり浸かって3セット完了。
お風呂からあがると、体中が真っ赤!時間が経っても体が冷えずぽかぽかです。毎日のパソコン仕事で凝り固まっていた肩や首も、軽くなったような気がします。
その後オーナーさんに聞いたところ、朝は43度くらいの熱い温浴でシャキッとさせ、夜は41〜42度の温浴でリラックスするのがよいそう。最後に冷泉で終えるのが大事だそうです。
こちらは野趣あふれるもうひとつの外湯。男湯と女湯は入れ替わるので、1泊でどちらも楽しめます。
酸素ボックスで体のすみずみまで巡らせる
宿がおすすめする“いまどき湯治”の締めは、湯あがりの酸素ボックスだそう。高気圧な環境で、高濃度酸素を吸入できます。サッカー、野球をはじめトップアスリートチームにも選ばれているのだとか。宿泊者は30分1人600円で体験できます。
筆者は、仕事で疲れているけれどもうひと踏ん張りしなければいけないとき、酸素カプセルを利用することがありますが、酸素ボックスは初体験。せっかくなのでたっぷり1時間体験してみることに。
中には椅子があり、ゆったり寛げるようになっています。
青いチューブの先から高濃度の酸素が噴出されます。酸素ボックスの操作は宿の方にお任せですが、気圧が上がっていく途中で何度か耳抜きが必要です。
温泉の後のハイテク機器に何だか不思議な気分になりながらも、30分をこえるあたりから急激に眠気を感じ、とろけるような至福のうたた寝を満喫。
レストランでの夕食の後は、コージーなラウンジで食後のコーヒーを
夕食は18:00からレストランにて。前菜、茶碗蒸し、おでん、鮭のピカタ、牛のワイン煮込み、豚ときのこの鍋、炊きたてのコシヒカリ、香の物とボリュームたっぷりです。アルコールもビール・日本酒・ワイン・焼酎など各種オーダーできますよ。
牛のワイン煮込みはやわらかく、添えられたりんごの甘酸っぱさもソースとよく合っていました。
20:00まではラウンジで、コーヒーを1杯500円(税抜)でいただけます。コージーな空間で、もの思いに耽ったり、しっとりと会話を楽しんだり。このおこもり感もまた、雪山のロッジならでは。
食後にもう一度温冷交互浴3セット!
ラウンジで食休みをしたら、もう一度お風呂へ。今度は内湯が41度くらいだったので、前回ほどのピリピリした熱さを感じることなく、体のすみずみまでほぐすようにじっくり浸かり、3セット完了させました。
湯あがりに部屋に戻り、窓からブナの森と月を見上げながら缶ビール(自販機で350円)を飲んでいると、いつの間にか日常から遠く離れている自分の心に気づきます。
肌からほんのり香る温泉の匂いも心地よく、ちょっとだけ……吸い込まれるようにベッドに横になると、そのまま夢の世界へ身も心も深く沈みこんでいってしまいました。
秘湯でのソーシャルディスタンスな“いまどき湯治”
翌朝。レストランにて8:00からの朝食でお腹を満たしたら、そろそろ日常へ帰る時間です。
今回宿泊した燕温泉は、人里離れた秘湯ゆえ、他の観光客と密になることもないソーシャルディスタンスな旅となりました。
宿では、検温や除菌はもちろん、レストランや温泉の脱衣場なども密にならぬよう工夫されていました。
何もないことを楽しむ、3密を避けた“いまどき湯治”。温冷交互浴で骨の髄まで温まって、体のすみずみまで巡りをよくして、何もない贅沢をゆったりと味わう。心ゆくまで非日常に没入できますよ。
●施設情報
燕温泉 燕ハイランドロッジ
住所:〒949-2235 新潟県妙高市燕温泉
電話:0255-82-2322
チェックイン:15:00
チェックアウト:10:00
駐車場:無料20台
アクセス:東京 北陸新幹線→しなの鉄道北しなの線利用(約2時間30分)
関山駅から燕温泉までバス利用(約25分)
※燕温泉バス停まで送迎あり。
[Photos by Aya Yamaguchi]