実際の利用が普及する前に高く評価され過ぎているという気がします。たとえば、私の運営するBitcoin.comのビットコインキャッシュ・ウォレットの1日当たりの新規利用数は、これまでのライトニング・ネットワーク利用数の総数よりも多いのです。
ライトニング・ネットワークは、ビットコインの仕組みを非常に巧みに成立させていたマイナー(仮想通貨の新規発行や取引承認に必要となる計算作業を行う人)の経済的なインセンティブを崩す可能性があるとも思っています。
ビットコインは、マイナーがネットワークを維持する計算作業を行うことで、報酬としてビットコインを受け取るというインセンティブがあったために成立していました。
一度、元Krakenのエンジニアで現Bitcoin.comのアドバイザーを務めるアンドレアス・ブレッケン氏が試験的にライトニング・ネットワークの半分を1ヶ月間コントロールして、数千万円分のBTCをチャネルに入れたのに、取引手数料としては0.00004289BTC (0.31ドル)だけが生じたことがありました。これではビジネスが成り立たず、マイナーのインセンティブがないため、ビットコインの仕組みを壊しているといえるのではないでしょうか。マイナーがほぼ報酬なしでシステムを維持するのは難しいということです。
ライトニング・ネットワークやサイドチェーンなどの新技術へと移行していくにあたって、システムをどのように維持するか、マイナーのインセンティブをどう確保していくかという複雑な命題は避けて通れません。これまでのビットコインとはまったく別の経済システムになっていくでしょう。ビットコインの処理能力改善の文脈で大きな期待を寄せて語られることが多いライトニング・ネットワークですが、まだ不透明な課題が残っている状態です。
もっとシンプルに言うならば、まだビットコインのシステムは崩壊しているわけではないのにビットコイン・コアの開発者達は簡単で迅速にできるブロックサイズ拡大による取引処理能力の拡大をせず、より複雑で時間のかかる改善を加えようとしている状態ですが、まだ綻びが出ていないのならば修繕する必要はないのではないかというのが私の意見です。
これは私自身がビットコインの所有者として、当事者の立場で真摯に考えることでもあります。ライトニング・ネットワークを提唱する業界の著名人たち、グレゴリー・マックスウェル氏やルーク・ジュニア氏、アダム・バック氏など、ビットコイン界隈の関係者の多くが、ビットコインをまったく所有せずに彼らの理想や見解だけを述べており、そのことを公言しています。しかし、ビットコインは実際に多くの所有者が存在する大きな問題なのです。
(つづく~「Bitcoin.com CEO ロジャー・バー氏インタビューvol.5 仮想通貨技術の将来性【フィスコ 株・企業報】」~)
【ロジャー・バー Profile】
1979年1月27日生まれ。アメリカ合衆国カリフォルニア州出身。仮想通貨ニュースサイトおよび仮想通貨ウォレット事業やクラウドマイニング事業などを多角的に展開するBitcoin.comのCEO。仮想通貨関連スタートアップのエンジェル投資家。仮想通貨の黎明期である2012年頃から、海外送金に特化した仮想通貨プロジェクトとして注目されるリップルや、仮想通貨オンライン・ウォレット・プロバイダー、仮想通貨取引所への投資を行っており、仮想通貨界隈で大きな発言力を持つ人物の一人。
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