■誘拐し、”虐待”をする『万引き家族』は推奨される不思議

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隣のマンションの階段で5歳の女の子「ゆり」が震えているのを見つけ、主人公の柴田治(50代)が連れて帰る。親からの虐待を受け、体中に傷跡がある「ゆり」の心情を考え、柴田家の6人目の家族として受け入れた。ところが柴田家はこの「ゆり」に万引きをさせはじめた。

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……これはカンヌ映画祭パルムドール作品『万引き家族』の一部です。

親からの虐待を受けた少女が、世間が「誘拐」とするような形での保護で、両親と離れて暮らす。どちらも似通った設定ではありませんか?

しかし、決定的な違いは年齢設定です。『幸色のワンルーム』では、10代後半~20代前半とみられる青年が14歳の少女を「誘拐ごっこ」する。一方『万引き家族』では、50代の中年男性が5歳の幼女を「誘拐」する。

この年齢差を比較すれば、『万引き家族』の方が、より「誘拐」に近い犯罪的なニュアンスではないでしょうか。加えて、決定的な違いは、『万引き家族』では、虐待から保護した「ゆり」に万引きをさせるという、実の両親とは異なる形の「虐待」を行っているのです。『幸色のワンルーム』の主人公は料理が得意で、少女にご飯を作ってあげたりするという、ほのぼのするようなシーンもあり、「虐待」とは程遠い。

『幸色のワンルーム』の”誘拐犯”のお兄さんは、料理上手で少女の髪を洗ったりもする青年、こちらは放送禁止されたのに、『万引き家族』の”誘拐犯”の中年男性は少年(祥太)の頭髪がボサボサでもお構いなし、さらにカップ麺やお菓子など、スーパーの食材を万引きさせる…これだけ子どもの待遇に差があるのに、作品としての扱いに違和感が残ります。

『万引き家族』はカンヌ受賞作という理由か、それとも是枝裕和監督が左派層から強く支持されている理由か、上映には「万引きや誘拐を肯定している」などというクレームはありませんでした。オタク文化には厳しいが権威に弱い、これがメディアの正義=「ポリティカルコレクトネス」なのでしょうか。

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