現在のトルコ・イスタンブールの旧市街は、かつてコンスタンティノープルと呼ばれ、東ローマ帝国の帝都として栄えました。1453年にオスマン帝国のメフメト2世がコンスタンティノープルを攻略してからは、オスマン帝国の皇帝はトプカプ宮殿に住みましたが、それ以前のコンスタンティノープルで東ローマ皇帝が住んでいた宮殿も、実はいまでもごくわずかながら残っているのです。

それが、1202年から1204年にかけての第四回十字軍のときまで使われていた東ローマ帝国の大宮殿です。コンスタンティノープル大宮殿とも呼ばれるこの宮殿は、330年にコンスタンティヌス1世がローマからコンスタンティノープルに首都を移したときに、建設を計画したのが起源です。その後第四回十字軍によるコンスタンティノープル略奪以来、宮殿は徐々に荒廃していきました。

メフメト2世がコンスタンティノープルを攻略した時にはすでに大宮殿は廃墟のようになっており、街の再建のために大宮殿のほとんどは撤去されました。そのため、その全貌をとどめたままの姿で今日まで残ることはできませんでしたが、1935年頃から大宮殿の地下からおびただしい量のモザイク画が発見されたため、現在は「大宮殿モザイク博物館」として一般に公開されています。

このモザイク画は、大宮殿のなかの柱廊がある中庭の小道を装飾するために造られたものです。当時の宮廷の人によって幾たびも踏まれていたため、色あせたものや損傷が激しいものもありますが、それでも優しい色合いの細やかで繊細なモザイク画には目を奪われます。

モザイク画には宗教的な意味合いが込められておらず、日常生活の一場面や動物や植物、神話の一部が描かれています。人の表情や、動物の毛並みや植物の微妙な色の濃淡、どのモザイク画を見ても当時の美術のレベルの高さを感じさせます。

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