Nexus MutualはEthereum上で組合メンバー向けにスマートコントラクト保険を提供するプロトコルである。スマートコントラクト保険は、特定のスマートコントラクトのバグに起因する資産紛失イベントに対して適応される。Nexus Mutualの資本プールにロックされている保険金の総額は約10万ETH(約50億円)で、合計手数料収益は約6,000ETH(約3億円)に上る。スマートコントラクト保険の中ではNexus Mutualは最大のTVLを有しているが、それでもDeFiのTVL全体の僅か0.5%しかカバーできておらず、DeFi保険市場は今後急拡大するポテンシャルがあると考えられる。9月末にNexusの保険加入者にインセンティブが提供される流動性マイニングが実施されたため、一時的にロック額は急増したが、その後、配布されたトークン価格暴落によるインセンティブ低下などからTVLは減少した。

現時点で52のDeFiウォレットサービスに対するスマートコントラクト保険が提供されている。ユーザーは、特定のDeFiスマートコントラクトと、カバー(保険請求)額を指定し、ETH、DAI、あるいはNexus Mutualの基盤トークンであるNXMで保険を購入する。保険の加入コストはそれぞれのサービスによって異なり、MakerやUniswap、Compoundなどの主要なプロトコルのカバーコストは比較的安いが、新しいサービスのカバーコストは平均的に高い。

Nexus Mutualは自律分散型組織として分散的な運営を目指しており、保険組合としてステークホルダー(コミュニティ)に運営を任せるスタイルが採用されている。具体的にはプライシングや保険金の管理、保険請求の審査・承認、コントラクトのリスク評価などをコミュニティに外注し、メンバーが自律分散的に組合を運営できる仕組みとなっている。ただ、構造上、他のDeFiよりも人に頼る比重が過大な印象であり、スマートコントラクトであろうと関係なく集権化してしまう可能性も考えられる。なお、これまでに保険金が請求された63件のうち、支払いが認められたのは3件に限られる。

Nexus MutualはDeFiではあるがKYCが必須であり、日本を含む一部の国のユーザーは利用することができなかった。そんな中、Yearn FinanceがNexusの保険をNFT(Non Fungible Token)化して代理販売するyInsureをローンチした。提供している保険の種類は限られるが、今では日本国内のユーザーでもNexus Mutualのスマートコントラクト保険を実質的に享受することができる。

なお、現時点でNXMはどの取引所にも上場しておらず、組合メンバーしか売買することができない。NXMの理論価格は保険プールのロック額に応じて算出されるよう設計されている。プールの資金が増加すればトークン価格も上昇し、プール資金が枯渇すればトークン価格も下落することになる。