福島県の浜通りと呼ばれる海沿いのエリアに位置する大熊町。福島第一原子力発電所が町内に建てられているため、2011年3月11日の東日本大震災の影響で原子力発電所事故が発生した際には、全町民が町から避難して「住民ゼロ」になるという事態も町は体験している。

そうした経緯から、大熊町は現在「ゼロからのまちづくり」を掲げて復興を進めている。復興はまだ道なかばではあるものの、町営住宅が移住者や町に戻ってきた住民ですぐに埋まってしまうなど、復興は順調に進んでいるという。

実際に大熊町を訪問し、復興が進む町の現在を見てみた。

大熊町が復興の象徴としているのが、町の中心地だったJR大野駅の西口一帯。ここを「大野駅西交流エリア」と名付け、復興の拠点として整備を進めている。

大野駅西交流エリアには、商業施設として店舗が集合した「クマSUNテラス」、産業交流施設としてオフィスビルの「CREVAおおくま」(記事冒頭の写真の建物)が作られた。どちらも3月15日にグランドオープンを果たしている。

現在、クマSUNテラスにはコンビニエンスストア1店、飲食店5店、文具店1店が入っているが、このうち、文具店の「ふたば文具」は震災前から町内で経営を行なっていた店舗だ。文具や雑貨などを販売するのはもちろんのこと、店舗内には誰でも弾けるピアノを常設する他、東京芸術大学とのコラボを行なうなど意欲的な取り組みを実践している。

大熊町の新たなビジネスの拠点「CREVAおおくま」

CREVAおおくまは3階建てで、事業者向けの貸オフィス、コワーキングスペース、多目的ホール、日本原子力研究開発機構や中間貯蔵事業情報センターの展示施設などで構成されている。貸オフィスにはトヨタ自動車や東京電力ホールディングスなどの計26社が入居し、全33区画のうち、空いているのは現在2区画だけとのことだった。

CREVAおおくまの特徴は、最先端技術を導入した建物の造りにも見られる。太陽光発電、自然採光、地中熱などを活用し、第一次エネルギー消費量が限りなくゼロに近い「Nearly ZEB」を実現しているのだ。

すべて震災後に新しく作られた施設だが、以前の文化センターの緞帳に使われていた人々が踊る姿を描いた絵が1階ホールに飾られるなど、過去の町とのつながりを忘れない姿勢も示していた。

この他、震災後初の民間ホテルである「タイズヴェルデホテル」が2024年12月に完成し営業をスタートさせるなど、大熊町のゼロからのまちづくりが確実に進んでいることは目に見える形で実感できるものとなっていた。