他方で、私は純粋な分散型ビジネスモデルは成立しえないと考えています。純粋な分散型は、個々のユーザーの完全な自己責任です。特定のユーザーだけがブロックチェーンの暗号を解読できる「鍵」のひとつであるプライベートキーを、各ユーザーに厳重に管理させるわけで、キーを紛失したら一巻の終わりともなりかねません。

分散型ビジネスモデルを実用化させるという意味では、確かにあまりに理想主義的で現実に即しません。よって、一定程度の信頼できるサードパーティが必要に応じて分散型ネットワークに入り込む必要があるでしょう。

■そのサードパーティには、ユーザーが使用料を払うという形ですね。

そうです。サードパーティが提供する付随サービスにお金を支払うことになります。「そんなの、分散型じゃない」と言われてしまうのですが、100%の資本主義や100%の共産主義が存在しえないように、100%純粋な分散型モデルも、決して究極の形ではないと思います。一部修正して、現実の社会に適応させるほうがいいのです。

■レンタルとは違う満足度もありそうですね。

そうですね。いつでもトークンを売却して、和服の所有権を移転することもできます。

法的な規制の問題で、いずれにしても和服のトークンは海外でしか販売できないのですが、日本の規制当局にもこのトークンエコノミーをバックアップしていただきたいのが本音です。

分散型ビジネスモデルには参入障壁が存在しません。現在の巨大プラットフォーム事業者のような「囲い込み」ができないため、他社も和服保管サービスに参入可能です。よって、企業の最大の目的である「利潤の最大化」という観点においては、ひょっとするとトークン発行業者にとって不利に作用するかもしれません。

一方で、分散型ビジネスモデルはコスト削減にも繋がります。「囲い込み」型ビジネスでは、その維持のために数百人、数千人の人員を割かなければならないところ、分散型なら数十人、あるいは数人で済む可能性があるのです。なぜなら、ブロックチェーンを導入することによって、重要データの管理やセキュリティ強化、様々な契約の運用などを自動化できるためです。オペレーションの負担が軽減されるぶん、総合的にみれば利潤は最大化しうるのではないでしょうか。

人員のリソースに依存しないため、今までは大企業の規模感がなければ不可能だった事業が、中小企業でもできるようになると期待されます。

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